国際ビジネス研究
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統一論題
協調的な標準化におけるアーキテクチャ・コントロール
知識の観点から見た移動体通信分野の事例検討
安本 雅典
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2020 年 12 巻 2 号 p. 1-17

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抄録

システムの複雑化にともない、国内外で企業間にわたる技術の共有や相互活用が進んでいる。こうした技術のオープン化は、典型的には複数の企業による協調的な標準化によって促されるが、それは同時に技術のスピルオーバー(流出)をもたらす。このような問題に対し、標準化を主導するだけでなく、標準化に対応した特許を数多く取得し知財権を確保することが、競争上の優位を確保するうえで重要であると考えられてきた。

だが、特許による知財権の確保は、技術についての権利を保障する一方で、その権利の確保のために技術情報を公開せざるをえないという、「オープン化のパラドックス(paradox of openness)」を生じる。これは、特許を数多く獲得するほど、技術のスピルオーバーが進むことを意味する。実際、数多くの特許を保有する有力な企業の特許を通じて、新興企業の技術開発力の向上とその台頭が生じていることが明らかにされている。このような状況において、なぜ、一部の企業は、大量の特許を保有して技術を公開しながら、技術や産業の進歩を主導し優位を維持し続けることができるのだろうか。

この問題について、本稿では、オープン化されたシステムに関する「アーキテクチャ・コントロール(architectural control)」に注目した。そのうえで、移動体通信分野を対象に、他社からの被引用が多く影響力のある技術を生み出している企業の知識について検討を行った。その結果、アーキテクチャ・コントロールを可能にする、一連の技術を生み出すうえで求められるのは、企業の保有する技術(特許)の保有量というよりは、サブシステム間にわたる多様な技術を統合するシステム知識の蓄積であることが明らかとなった。

こうした結果は、標準化や特許化によって技術のスピルオーバーが進む状況でも、多様な技術を統合するシステム知識を構築・保有している企業は、技術や産業の発展をコントロールし優位を保ちうることを示唆している。技術のオープン化による国際分業が進むなかで、技術や産業の進歩を主導するには、個々の技術の標準化や特許化に力を注ぐだけでなく、それらの技術の背後にあって、多様な技術を統合するシステム知識の蓄積が不可欠であると考えられる。

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