国際ビジネス研究
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12 巻, 2 号
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巻頭言
統一論題
  • 知識の観点から見た移動体通信分野の事例検討
    安本 雅典
    2020 年 12 巻 2 号 p. 1-17
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/10/23
    ジャーナル フリー

    システムの複雑化にともない、国内外で企業間にわたる技術の共有や相互活用が進んでいる。こうした技術のオープン化は、典型的には複数の企業による協調的な標準化によって促されるが、それは同時に技術のスピルオーバー(流出)をもたらす。このような問題に対し、標準化を主導するだけでなく、標準化に対応した特許を数多く取得し知財権を確保することが、競争上の優位を確保するうえで重要であると考えられてきた。

    だが、特許による知財権の確保は、技術についての権利を保障する一方で、その権利の確保のために技術情報を公開せざるをえないという、「オープン化のパラドックス(paradox of openness)」を生じる。これは、特許を数多く獲得するほど、技術のスピルオーバーが進むことを意味する。実際、数多くの特許を保有する有力な企業の特許を通じて、新興企業の技術開発力の向上とその台頭が生じていることが明らかにされている。このような状況において、なぜ、一部の企業は、大量の特許を保有して技術を公開しながら、技術や産業の進歩を主導し優位を維持し続けることができるのだろうか。

    この問題について、本稿では、オープン化されたシステムに関する「アーキテクチャ・コントロール(architectural control)」に注目した。そのうえで、移動体通信分野を対象に、他社からの被引用が多く影響力のある技術を生み出している企業の知識について検討を行った。その結果、アーキテクチャ・コントロールを可能にする、一連の技術を生み出すうえで求められるのは、企業の保有する技術(特許)の保有量というよりは、サブシステム間にわたる多様な技術を統合するシステム知識の蓄積であることが明らかとなった。

    こうした結果は、標準化や特許化によって技術のスピルオーバーが進む状況でも、多様な技術を統合するシステム知識を構築・保有している企業は、技術や産業の発展をコントロールし優位を保ちうることを示唆している。技術のオープン化による国際分業が進むなかで、技術や産業の進歩を主導するには、個々の技術の標準化や特許化に力を注ぐだけでなく、それらの技術の背後にあって、多様な技術を統合するシステム知識の蓄積が不可欠であると考えられる。

研究論文
  • ─教えることの効果に関する事例研究─
    藤岡 豊
    2020 年 12 巻 2 号 p. 19-33
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/10/23
    ジャーナル フリー

    本研究は、多国籍企業における生産技術システムの国際水平移転が、教える側の技術者と作業者に対してどのような効果をもつかを明らかにしようとするものである。本研究は生産技術システムを「多様な生産技術要素の組み合わせや総体を意味するシステム」と定義している。

    技術移転の先行研究によれば、生産技術システムの国際移転は、本国親工場が生産技術システムを海外子工場へ教える「垂直的順移転」が主流であった。しかし、近年では、海外子工場が生産技術システムを他国の海外子工場へ教える「国際水平移転」が見受けられるようになっている。

    本研究は、生産技術システムの特に国際水平移転において、教える側の技術者と作業者の人間的技能と概念的技能の開発に対して、技術指導が正の影響を与えるという2つの命題を開発した。すなわち、教える側の技術者と作業者の人間的技能の開発に対して、技術指導が正の影響を与えるという命題1と、教える側の技術者と作業者の概念的技能の開発に対して、技術指導が正の影響を与えるという命題2である。本研究はこれら2つの命題を日系多国籍製造企業2社の事例研究を通じて探索的に検証することにした。

    事例研究の結果、生産技術システムの国際水平移転(技術指導)は、教える側の技術者と作業者の人間的技能と概念的技能の開発に対して、ともに直接的に寄与することが判明した。同時に、特に概念的技能の開発に対しては、技術指導が生産技術システムの形式化という要因を媒介して間接的に寄与する可能性も明らかになった。したがって、命題1は支持されたものの、命題2は部分的に支持されることになった。

    以上の発見事実は、「誰」に知識を供給(教え)させて知識を組織的に創造させるか、「誰」に教えさせて育成するのか、さらには教える者と教材との間にどのような関係を作れば、教える者を効果的に育成できるのかという新しい理論的視角を提供する。

    しかし、これらの発見事実は、日系多国籍製造企業2社の探索的な事例研究に基づいた検証結果であり、その外部妥当性は必ずしも高くない。加えて、命題に影響を及ぼす他の重要な制御変数を見落としている可能性もある。したがって、今後は他の重要な制御変数も制御しつつ、本研究の命題を大規模な標本を使って定量的に再検証し、その外部妥当性を確認することにしたい。

  • ─最適刺激水準理論に基づく経験的研究─
    古川 裕康, 李 炅泰
    2020 年 12 巻 2 号 p. 35-47
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/10/23
    ジャーナル フリー

    本研究の目的はコスモポリタニズム(COS)がノベルティシーキング(NS)、ならびにバラエティシーキング(VS)へ与える影響を検証することである。近年、国際的な観点を持ち異文化から積極的に学び吸収しようとする消費者が出現している。このような消費者の傾向はコスモポリタニズムと定義されており、オープンマインドであり、多様性を尊重し、国境を超える消費活動を行う特徴が確認されてきた。

    COS の特徴を考慮すると、彼らは自国製品とは違う特徴を持つ、新奇かつ多様な外国製品を試すことに前向きであることが容易に想定できる。その点で、COS は異文化や外国の製品に対する新奇性と多様性といった探索的行動を導くと考えられる。ところが、それに関する実証研究は少なく、COS が購買行動における新奇性ならびに多様性の追求と具体的にどのような関係を持つのかに関しては、ほとんど知られていない。消費者行動における新奇性と多様性の追求は、最適刺激水準(optimum stimulation level: OSL)理論と関連して頻繁に論じられる。したがって、本稿ではCOS と新奇性(NS)と多様性(VS)追求行動の関係性をOSL 理論に基づきながら検証した。

    検証には806 名の日本人消費者サンプルを用い、被験者には日用品とスマートフォン端末に関する消費行動について回答してもらった。分析の結果、COS が高まる程、NS が高まることが明らかとなった。一方、COS とVS については有意な関係性が確認できなかった。ただし、自国製品選好が低いグループに限っては両者の間に正の関係性が確認された。更に本稿ではOSL とNS ならびにVS 間の関係、そしてNS とVS の関係についても正の関係性が確認された。

    母国市場と進出国市場における消費者の隔たりを検証しようとする既存の枠組みでは、COS の高い消費者の存在を十分に説明しきれない。本点を踏まえ本稿はCOS とNS ならびにVS の関係性について、OSL 理論を内包しながら検証を実施した点に意義がある。OSL 理論はこれまで多くの研究蓄積があるものの、COS の概念を用いて国際的な文脈で捉えられることはこれまで無かった。本稿はOSL 理論の国際ビジネス領域における拡張的検討と位置付けられる。

  • 稲村 雄大
    2020 年 12 巻 2 号 p. 49-64
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/10/23
    ジャーナル フリー

    これまで、多国籍企業の海外現地法人における人材配置と現地法人のパフォーマンスとの関係を実証的に分析した先行研究は少なくないが、それらの先行研究における実証分析の結果は、必ずしも一致していない。本稿では、そのような分析結果の不一致を説明し、また人材配置と現地法人のパフォーマンスとの関係に影響する要因を明らかにするためのひとつの視点として、ホスト国における制度環境の変化に注目した。ホスト国の制度環境が変化すれば、そこで活動している組織(現地法人)に与えられるプレッシャーや求められる行動も変化し、人材配置と現地法人のパフォーマンスとの関係も同様に変化すると考えたのである。

    そのような、ホスト国における制度環境の変化が海外現地法人における人材配置と現地法人のパフォーマンスとの関係に与える影響を検証するために、本稿は、WTO 加盟前後の中国において、日本企業の現地法人におけるトップマネジメント人材の現地化と現地法人のパフォーマンスとの関係がどのように変化したのかを、長期間のデータを用いて実証的に分析した。その結果として、日本企業の現地法人におけるトップマネジメント人材の配置の傾向、およびトップマネジメント人材の現地化と現地法人のパフォーマンスとの関係が、WTO 加盟前後の中国において変化していることを明らかにした。具体的には、WTO 加盟前の中国において、とりわけ日本企業の出資比率が低い場合にトップマネジメント人材の現地化は現地法人のパフォーマンスを高めていたのに対して、WTO 加盟後の中国においては、そのような現地化の正の影響は見られなくなり、逆に現地化の負の影響(現地法人トップに日本人を置くことの正の影響)が見られた。

    本稿の分析結果は、ホスト国の制度環境が変化することで、海外現地法人が直面する現地適応のプレッシャーも変化し、人材配置と現地法人のパフォーマンスとの関係も変化する可能性があるということを意味している。制度環境の影響を分析する上では、本稿のように同一国内での制度環境の変化に注目するという方法以外にも、たとえば同一時点における人材配置と現地法人のパフォーマンスとの関係を複数の異なる国で比較するという方法もありうるが、そのような静態的な分析ではとらえられない制度環境の時系列的な「変化」の影響を、長期間のデータを用いることで動態的に分析したことは、本稿の独自の貢献点のひとつと考える。

  • ─多国籍企業の地域統括会社に対する事例分析
    潘 卉, 椙山 泰生
    2020 年 12 巻 2 号 p. 65-80
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/10/23
    ジャーナル フリー

    多国籍企業のグローバル戦略に対する組織のフィットに関する研究は豊富にある一方、地域戦略に適合した地域レベルの組織の形態や役割に関する研究は不足している。特に、地域統括会社(RHQ)に関する既存研究の多くはその類型や役割について記述してはいるが、役割の変化について議論した研究は少ない。そこで本稿は、日本自動車部品会社のアジアにおけるRHQ を対象にして継時的に事例分析を行った上で、進化論の視点で統括機能の変化プロセスを検討した。

    事例分析を通じて、地域内子会社能力の構築や環境変化と共に地域統括機能が動態的に変化していくメカニズムを提示した。RHQ が果たしている機能は一定のものではなく、地域内子会社能力と地域環境によって変化した課題と相互に影響し合って、絶えずに変化していくことが明らかになった。さらに、この統括機能が動態的に変化するメカニズムによって、多国籍企業全体の成長に地域組織が与える影響の可能性を示した。

研究ノート
  • ─米国内外国籍人材とH1-Bビザ人材の位置づけの視点から─
    林 倬史, 中山 厚穂
    2020 年 12 巻 2 号 p. 81-94
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/10/23
    ジャーナル フリー

    本論文では、米国特許技術の発明者の国籍から研究開発の国際化を再検討し、従来の手法による研究開発の国際化の限界性を明らかにし、分析対象企業の研究開発国際化に関する別の論点からの検証が不可欠であること、そして別の手法に依拠した場合には、これら米国IT 系企業群の研究開発の国際化は、従来とは異なった姿を現してくることを検証していく。

    本論文では、米国特許件数ランキングの上位を占めるIT 系の米国多国籍企業8社の研究開発の国際化水準を、USPTO(米国特許商標庁)とUSPATFUL の米国特許データおよびNSF(National Science Foundation) およびUSCIS(米国移民局)のデータによる検証を試みている。その結果見いだされた点は、国境を超えて海外で展開するいわゆるCross-border 型の研究開発の国際化の観点だけからでは、研究開発国際化の程度を十分に説明しえないこと、その際、IT 8社の米国外と米国内外国籍発明者数とを合算すると、米国特許発明の国際化の程度は大幅に高まる点であった。換言すれば、これらIT 系米国多国籍企業によるいわゆる「H1-B ビザ」による外国籍研究開発人材の米国内での活用が、新たな科学技術知識の創造にとってもはや無視しえない役割を果たしている点であった。このことは、したがって、これら企業の新たな外国籍人材の内外での活用を考慮に入れた新たな研究開発国際化の指標が不可欠となっている ということでもある。

    とりわけ、米系IT 8社、特にAmazon をはじめとするGAFA 4社の研究開発システムを外国籍人材の側面から吟味した場合には、次の点が指摘されえた。すなわち、特許技術の発明という知識創造の仕組みをその国際的システムから見た場合には、そこには単なる研究開発のCross-border 的側面のみならず、米国内における外国籍R&D 人材の戦略的活用が重要な役割を果たしているという特質が見いだされる点である。したがって、本論文の目的は米系IT 企業のグローバルなR&D 活動における人材活用戦略を“Outward”と“Inward”の両側面から検証する必要性を提示することでもある。

  • ユナイテッドアローズの事例研究
    堀内 慎一郎
    2020 年 12 巻 2 号 p. 95-109
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/10/23
    ジャーナル フリー

    本稿では、東証一部上場の大手セレクトショップ、株式会社ユナイテッドアローズ(UA)の国際展開と国際人的資源管理の実態について、関係者へのインタビューと日本国内および台湾(UA 台湾)の店舗での現地調査による調査分析を行った。

    その結果、日本国内において原則直営店によるチェーン展開と、正規従業員中心の接客・サービスを行っている同社は、台湾において100%出資による完全子会社を設立し、日本と同様に直営店舗による展開を行っていることが分かった。

    またUA 台湾では、子会社社長を始めとする幹部をUA 本体の役員クラスの者が非常駐で兼務するとともに、日本人派遣者が現地責任者としてサービスの国際移転に重要な役割を果たす等、PCNs に依存した子会社経営とサービスの国際移転が行われる一方で、やはり日本と同様に、店長を筆頭としたHCNsの正規従業員中心の接客・サービスを行っていることが分かった。

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