海外赴任者の適応研究はBlack, Mendenhall, and Oddou(1991)の適応フレームワークに基づき適応要因と3つの適応対象に対する適応程度との関係を中心に展開されてきたが、適応要因は個人の資質、仕事の特質や組織要因など個人の意思が反映されない要因で構成されている。しかし、海外赴任者が環境変化に適応する際には任意に選択できる適応方法が存在する。本論文の目的は適応程度の自己認識基準である14の適応項目を海外赴任者の適応に対する脅威と捉え、その脅威に対し海外赴任者が任意に選択可能な適応方法を提示し、適応フレームワーク上に適応方法と適応との関係を加えることにある。本稿で対象とした文献は学術情報の検索エンジンを用いExpatriate Adjustment及びCoping Strategyをキーワードとして1991年から2019年までの海外赴任者の適応方法に関する実証研究論文から抽出した。海外赴任者の適応方法研究が依拠する理論は主としてストレス・コーピング理論、ワークロール・トランジション理論および文化変容理論である。これらの理論に依拠した海外赴任者の適応方法の研究に基づき、新たな適応方法のマトリックスを利用することで海外赴任者が任意に選択する適応方法と適応程度の関係を明らかにする。