国際ビジネス研究
Online ISSN : 2189-5694
Print ISSN : 1883-5074
ISSN-L : 1883-5074
14 巻, 1 号
選択された号の論文の13件中1~13を表示しています
研究論文
  • ─マルチ・ケース・スタディを通じて─
    ソリンガ
    2022 年 14 巻 1 号 p. 1-23
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/10/16
    ジャーナル フリー

    本稿の目的は、海外事業展開を行う中小企業における、外国人労働者(高度人材・技能実習生)の活用現状を国際経営的な観点から検討することである。すなわち、海外進出に取り組む中小企業における外国人材がどのような役割を果たすのかを定性研究事例分析によって明らかにする。日本では人口・労働力の減少という問題に対処するため、ますます多くの外国人労働者が企業に受け入れられている。多くの外国人労働者は十分でない労働環境の中で非熟練労働者として雇用されているが、国際化を進める中小企業の中には、海外への市場拡大戦略の一環として、高度な知識や技能を持つ外国人材の育成に取り組んでいる企業もある。

    本研究は、ケース・スタディーを通した定性的研究方法を用いて、海外進出事業を円滑に遂行するために日系中小企業がどのように外国人労働者を管理育成・活用しているのかを明らかにするものである。調査対象は、東北地域の13社である。その上、二年間で、密度の濃いインタビュー調査と参与観察を通じて、外国人労働者による海外進出の現象として日系中小企業3社に絞って、プロセス調査も行った。具体的には、中小企業の国際化のために活躍している外国人労働者は、技能実習生(TI)、self-initiated expatriate(SIE)と帰国外国人留学生(FIG)の3種類に分けられる。プロセススタディを分析したところ、海外進出に取り組む中小企業における外国人材の二つの役割「海外活動の触媒」と「接着剤」が浮かび上がった。

    本研究は、国際経営(IB)、特に国際化プロセス理論と人的資源管理(HRM)の統合に位置づけられる。さらに、経験が限られた中小企業における外国労働者の扱い方についても、新しい可能性を示した。

  • 日本のIT産業における韓国人IT従事者達のキャリア経路と3つの役割
    金 一珠, 金 熙珍
    2022 年 14 巻 1 号 p. 25-40
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/10/16
    ジャーナル フリー

    国際的人的移動が増える中で、Self-initiated expatriate(SIE)は近年国際人的資源管理論(IHRM)分野で活発に議論されている。SIEとは、企業が派遣する伝統的な駐在員(Organizational expatriate, OE)と区分され、海外で働くことを自ら決断し自発的に移住した人的資源のプールを意味する。SIEは移動先国の特定産業内でどのようにキャリアを形成しながら、どういった役割を果たすのだろうか。本研究はIHRMと人材のグローバル移動(Global Mobility)の視点を繋げ、この問いへの答えを探る。

    我々は、日本のIT産業に就く韓国人SIEを研究対象としデータ収集を進めた。IT産業の成長・拡大の中で日本企業の人手不足問題は深刻で、専門知識とスキルを持つ外国人エンジニアの確保はどの産業よりも重要といえる。我々は、様々な経歴の韓国人SIE 23名のインタビュー調査から、1)初期・中期・後期と長期にわたるキャリア経路の在り方、2)IT産業内においてSIEが担う3つの役割(即戦力の提供、組織・個人のブリッジ機能、サービス開発による価値創造)を明らかにすることができた。

    本研究は、国際経営の文脈における「人材」への視野をより広げるための試みであり、日本におけるSIEの議論を「現地採用日本人」(古沢,2017;2020)から「本国採用外国人」へと拡張する。また、IT産業内におけるSIEの中長期的なキャリア経路に焦点を置くことで、SIEが経験を重ねながらより高付加価値をもたらす役割へと移行している動きを明らかにした。本研究の結果は、新たな人材プールとしてのSIEの重要性と価値を示すものである。

  • ─新興国市場における「非連続性」の研究とBOPビジネス研究との補完的関係性の考察─
    見山 謙一郎
    2022 年 14 巻 1 号 p. 41-52
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/10/16
    ジャーナル フリー

    新宅・天野(2009)が提起した、新興国市場戦略の「非連続性」の研究と、経済産業省の「官民連携によるBOPビジネスの推進」(2009)が契機となったBOPビジネス研究は、我が国においては同時期に提起された。これまでのところ、新興国市場戦略における「非連続性」の研究とBOPビジネス研究は十分に交差することなく併行的に進んでいるが、従来の国際化モデルとのギャップの存在(天野,2010)を前提とする、2つの研究の交差上に新興国市場戦略研究に対する新たな分析視角が見いだせるものと考える。本稿の目的は、新興国市場戦略の「非連続性」の研究とBOPビジネス研究の関係性を整理し、新興国市場戦略研究に対するBOPビジネス研究からの補完的な分析視角を示すことにある。ここで導かれた分析視角は、途上国を含めた新興国多国籍企業(Emerging Country’s MNCs: EMNCs)の研究に対しても、新たな分析視角となるものである。

    本稿では、天野(2010)の新興国市場戦略研究の理論的背景から導かれた「非連続性」の課題を(1)先進国市場とのコンテクストの違い、(2)市場志向と資源コミットメント、(3)資源、能力制約、(4)ステークホルダーとのパートナーシップ構築の4つに整理し、先行研究における論点と研究課題を整理する。そして、新興国市場戦略研究とBOPビジネス研究を比較、相対化するため、「非連続性」の4つの課題をBOPビジネス研究に援用し、新興国市場戦略研究の課題に対し(1)現地ならではの社会課題や市場ニーズ、(2)現地における価値共創、(3)先進国企業が持ちえない現地資源・能力の活用、(4)多様なステークホルダーとのパートナーシップという、「現地目線」からの補完的な分析視角を示す。更に、この「現地目線」からの分析視角を用いて、ブラジルのビューティ企業ナチュラ・コスメティコ社(Natura Cosméticos)の先行研究(金崎,2015)と、今回新たに調査を行ったバングラデシュの家電最大手企業のウォルトン社(Walton)の事例の考察を行い、新興国市場戦略研究に対するBOPビジネス研究からの補完的な分析視角が、新興国多国籍企業の研究や、新興国を経由したグローバル市場戦略の研究に繋がることを示す。

研究ノート
  • 大谷 巧
    2022 年 14 巻 1 号 p. 53-63
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/10/16
    ジャーナル フリー

    海外赴任者の適応研究はBlack, Mendenhall, and Oddou(1991)の適応フレームワークに基づき適応要因と3つの適応対象に対する適応程度との関係を中心に展開されてきたが、適応要因は個人の資質、仕事の特質や組織要因など個人の意思が反映されない要因で構成されている。しかし、海外赴任者が環境変化に適応する際には任意に選択できる適応方法が存在する。本論文の目的は適応程度の自己認識基準である14の適応項目を海外赴任者の適応に対する脅威と捉え、その脅威に対し海外赴任者が任意に選択可能な適応方法を提示し、適応フレームワーク上に適応方法と適応との関係を加えることにある。本稿で対象とした文献は学術情報の検索エンジンを用いExpatriate Adjustment及びCoping Strategyをキーワードとして1991年から2019年までの海外赴任者の適応方法に関する実証研究論文から抽出した。海外赴任者の適応方法研究が依拠する理論は主としてストレス・コーピング理論、ワークロール・トランジション理論および文化変容理論である。これらの理論に依拠した海外赴任者の適応方法の研究に基づき、新たな適応方法のマトリックスを利用することで海外赴任者が任意に選択する適応方法と適応程度の関係を明らかにする。

特別寄稿
feedback
Top