国際的人的移動が増える中で、Self-initiated expatriate(SIE)は近年国際人的資源管理論(IHRM)分野で活発に議論されている。SIEとは、企業が派遣する伝統的な駐在員(Organizational expatriate, OE)と区分され、海外で働くことを自ら決断し自発的に移住した人的資源のプールを意味する。SIEは移動先国の特定産業内でどのようにキャリアを形成しながら、どういった役割を果たすのだろうか。本研究はIHRMと人材のグローバル移動(Global Mobility)の視点を繋げ、この問いへの答えを探る。
我々は、日本のIT産業に就く韓国人SIEを研究対象としデータ収集を進めた。IT産業の成長・拡大の中で日本企業の人手不足問題は深刻で、専門知識とスキルを持つ外国人エンジニアの確保はどの産業よりも重要といえる。我々は、様々な経歴の韓国人SIE 23名のインタビュー調査から、1)初期・中期・後期と長期にわたるキャリア経路の在り方、2)IT産業内においてSIEが担う3つの役割(即戦力の提供、組織・個人のブリッジ機能、サービス開発による価値創造)を明らかにすることができた。
本研究は、国際経営の文脈における「人材」への視野をより広げるための試みであり、日本におけるSIEの議論を「現地採用日本人」(古沢,2017;2020)から「本国採用外国人」へと拡張する。また、IT産業内におけるSIEの中長期的なキャリア経路に焦点を置くことで、SIEが経験を重ねながらより高付加価値をもたらす役割へと移行している動きを明らかにした。本研究の結果は、新たな人材プールとしてのSIEの重要性と価値を示すものである。
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