2022 年 14 巻 2 号 p. 39-51
本稿の目的は、国際合弁事業(IJV)における多国籍企業(MNC)と現地パートナー企業によるIJVの株式の取得と譲渡を促す要因を明らかにすることである。IJVにおける出資企業間の依存関係に注目し、IJVの現地販売と現地調達、またMNCのホスト国での事業経験が、IJVにおける各出資企業の出資比率の変化に影響するという議論を行う。日本における製造業のIJVを対象とした分析の結果、次の傾向が見いだされた。(1)現地販売比率や現地調達比率が高いIJVほど、MNCは当該IJVの株式を現地パートナー企業に譲渡する傾向を持つ。(2)現地調達比率が高いIJVほど、MNCは現地パートナー企業から当該IJVの株式を取得しなくなる。(3)MNCがホスト国での長い事業経験を持つ場合、IJVの現地販売比率とMNCによる現地パートナー企業からの当該IJVの株式取得の関係は正にモデレートされる。(4)MNCがホスト国での長い事業経験を持つ場合、IJVの現地調達比率とMNCによる現地パートナー企業に対する当該IJVの株式譲渡の関係は負にモデレートされる。これらのことは、IJVにおいて販売と調達の現地化がMNCと現地パートナー企業間の依存関係を生み出すものの、MNCはホスト国での事業経験を積むことでその関係を変化させられる可能性を示している。