新型コロナウイルス感染症の世界的拡大する中、バリュー・チェーンの強化と再構築を求める声が強まりました。調達の効率化を図った結果として、サプライ・チェーンまたは流通チェーンが限られた企業と国に集中したため、企業は、サプライヤーから必要な材料とインプットを継続的に受けられるかが大きな懸念となり、バリュー・チェーンが集中する場所はどこなのか、が問題となりました。
この問題に対し、私は国際機関日本アセアンセンターからのある報告書(Resilient Global Value Chains for ASEAN and its Relationship with Partner Countries、https://www.asean.or.jp/en/centre-wide/resilient_gvcs/)の中で、国際生産ネットワークに参入しているASEAN加盟各国および企業は、それぞれの業界における外部リスクに対するバリュー・チェーンの脆弱性を求め、そのリスク度合いを考慮に入れGVC(グローバル・バリュー・チェーン)を検証すべきであると指摘しました。具体的には、2種類のリスク─GVCの上流部分に影響を与えるリスク(サプライヤー市場の集中)と、GVCの下流部分に影響を与えるリスク(バイヤー市場の集中)─を検証し、どの産業がリスクに対してより脆弱な傾向にあるかを特定しました。
検証の結果、サプライヤー市場におけるパートナー国別の集中度を見ると、中国はASEANの様々な産業において最も重要なサプライヤーとなっており、ASEAN加盟国の標準化された222の産業の半分以上(129産業)で、競争上の懸念を引き起こすのに十分な市場占有率を占めていることがわかりました。一方、日本が、高い市場占有率を示しているのは、38の産業です。他方、バイヤー市場の集中に関しては、中国は多くの産業において主要なバイヤーとは見なされていません(中国が市場の集中において影響力をもつのは、11産業のみ)。日本は、24産業において、主要なバイヤーです。
さらに、私はASEANにおいて強靭なGVCを構築するための、以下5つを含む戦略を提案しました:
● ASEAN加盟国によって実施されたパンデミック関連の政策措置の活用すること
● 民間セクターによる、リスク管理の改善すること
● 公的部門、民間部門双方によるデジタル変革の強力な推進すること
● 新しい危機に強い産業の促進すること
● 国際生産のための企業戦略の再検討すること(オフショアリングまたはリショアリング)
最後に、政策立案関係者に対し、新型コロナウイルス感染症による危機とその経済的余波に効果的に対処するには、一時的な解決策や保護貿易主義に頼るのではなく、全体のバランスに配慮したビジネス環境を維持することが重要であると指摘しました。
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