国際ビジネス研究
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研究ノート
国際的な戦略的提携における知識経営
─ホータイ・モーターの事例研究─
李 建儒
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2023 年 15 巻 1 号 p. 51-63

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抄録

本論文は、国際経営における戦略的提携の成功の条件について、知識移転や知識適応化の研究の視点に立ち、さらに長時間が経過して、受け手側の企業が現地国での経験を深めていく中で、そうした企業がいかにして現地市場の変化に伴う適応化を進めていけるようになるのかという現象に注目する。また本論文は、その成功とは、受け手側の企業が現地提携事業の競争優位性の構築と持続を実現したことで、業界のトップを走り続けられることを定義する。

本論文では、自動車販売業における日本と台湾の戦略的提携の事例に注目して、台湾企業がこの市場変化に伴う適応化に成功していったプロセスを明らかにする。本論文で分析する対象は、ホータイ・モーターである。同社は、トヨタの現地パートナー企業として、その知識を現地に移転させることに成功した。その後、同社は現地市場の消費者の趣向や商慣習、法制度の違いなどに合わせて知識を改良し、現地の状況に適応させていった。さらには、同社は、1987年から約10年後に生じた台湾市場の大きな変化と、それに伴う深刻な販売低迷という経営危機の中で、現地市場の急速な変化に合わせるかたちで、トヨタの方式をシステマチックに変更していった。それにより同社は、この経営危機を乗り越えることに成功したのであった。

なぜホータイ・モーターは、これらの一連の知識移転、知識適応化、市場変化に伴う適応化のプロセスを成功裡に進めることができたのであろうか。本論文はその問いに答えるために、同社の事例に基づいて、同社が移転された知識を現地市場に合わせていった方法について、その個々の日常のオペレーション(販売管理手法、アフターサービス、情報システム、商品戦略、広告宣伝)レベルの変化にまで踏み込んで明らかにしていく。

本論文の調査から発見した事実によって、(1)知識移転プロセスでは、台湾側の本部担当者たちが、プロジェクト準備室を通じて駐台日本人経営幹部から販売チャネルの形式知を学習し、個人能力が向上したことがわかる。また、(2)知識の適応化プロセスでは、台湾側の本部と現場の担当者は、トヨタの知識を現地の法制度や消費者特性に合わせて改良した。(3)市場変化に伴う適応化プロセスでは、台湾側の本部担当者たちは、定期的な会議を通じて各部門の情報を共有し、既存の知識体制を内省化することで、現地市場の変化に合わせた改善計画を練り出し、顧客に向けて自らの工夫によって移転・適応化された知識を再度改良した。そして本部と現場の知識を体系化することで既存知識の不適合を解消した。

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