国際ビジネス研究
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研究論文
  • 石 瑾
    2023 年 15 巻 1 号 p. 1-13
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/16
    ジャーナル フリー

    近年、新興国発の多国籍企業(EM-MNEs)は、グローバル市場においてプレゼンスを急速に高めている。本稿は、これらの企業の異質な国際化プロセス、いわゆる「二重の国際化」に焦点を当て、どのような戦略が用いられるかを検証することを研究目的とする。そこで、中国のアリババ・グループを代表事例として取り上げ、先進国と新興国市場における当該企業の国際戦略についてそれぞれ考察した。その結果、EM-MNEsが二重の国際化を行う際、先進国市場においては、資源探索型の戦略志向が強く、また、市場の異質性を考慮した適応化戦略を用いて対応するのに対し、母国と類似性の高い新興国市場においては、資源活用型の戦略志向が強く、標準化戦略を駆使するという結論を導き出した。

  • ─企業の異質性を考慮した研究─
    島本 健, 佐藤 忠彦, 立本 博文
    2023 年 15 巻 1 号 p. 15-25
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/16
    ジャーナル フリー

    本研究では、製造業に属する日本企業の海外進出が業績に与える影響について、企業の異質性を考慮し、進出地域ごとに分析を行う。

    多国籍企業の海外進出と企業業績の関係については、多くの研究がなされている。しかしながら、海外進出の効果についてポジティブである、ネガティブである、あるいは非線形の効果があるなどの報告がなされており、一致した結果は得られていない。この理由の1つは、既存研究が推計している統計モデルが企業ごとの効果の異質性を十分に考慮していないためと考えられる。

    本研究では、近年、一般的な統計手法として用いられている階層ベイズモデルを適用し、企業ごとの効果を推定することによって、企業の異質性を考慮に入れた分析を試みた。また、その際に、地域ごとに進出の効果が異なることが想定されるため、アジア、欧州、北米の地域ごとに分析を行った。

    その結果、企業の個体差を考慮し企業ごとのパラメータを推定したことにより、海外進出の効果を示すパラメータの分布にはいずれの地域(およびアジアにおける交互作用項)においても二峰性が認められ、企業の属性等によって異なる影響を与えていることが分かった。また、海外進出の業績への影響は地域ごとに異なり、北米の市場は日本と類似性がある一方、アジアについては異質なマーケットであるとともに、業況の拡大を伴って初めて業績にポジティブな影響を及ぼすことが定量的に示された。

  • ─日本のものづくり企業の事例分析─
    椙江 亮介
    2023 年 15 巻 1 号 p. 27-40
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/16
    ジャーナル フリー

    本研究は、多国籍企業において「生産技術システムとグローバル情報システムの移転プロセスにおける①相互作用はどのようなものか、②促進条件は何か」を明らかにしようとするものである。本研究ではグローバル情報システムをERPシステムと定義して議論を進めていく。先行研究ではERPシステムをグローバル統合して導入するか、それともローカル適合で導入するかの議論が行われている。特に日本の多国籍企業においては、日本的経営・生産技術システムとERPシステムが不適合な関係であることが指摘されている。その中で日本の強みである現場改善のような生産技術システムとERPシステムの持つ優位性を両立の可能性について議論されている。そのため、本研究ではこれら2つの生産技術システムの移転とグローバル情報システムの移転における日本のものづくり企業についての探索的な事例研究を実施した。

    これまでの既存研究では本国親会社と海外子会社の移転方向に着目し、生産技術システムの移転に限定して議論されている。しかし、本研究では生産技術システムの移転方向の議論に対して新たな分析枠組みとしてグローバル情報システムの視点を加え、ダイナミックスに分析した。そうすることでグローバル情報システムが生産技術システムの移転を促進させる相互作用について明らかにした。また、それらを促進させる条件についても明らかにしたことは本研究における重要な貢献といえる。

研究ノート
  • ─海外工場が構築した能力の活用に向けて─
    徐 寧教
    2023 年 15 巻 1 号 p. 41-50
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/16
    ジャーナル フリー

    近年、海外工場が現地での操業を通じて能力を構築し、その能力を別の海外拠点に移転するためにマザー工場化する現象が現れている。既存研究では、主に単一の事例研究を中心に海外工場のマザー工場化がどのような現象であり、具体的にマザー工場化するために経てきたプロセスはなにかを記述してきた。しかし、なぜ海外工場がマザー工場化するかに関しては諸説あり、さらなる研究が必要な状態である。本研究は、海外工場のマザー工場化はどのような要因によって行われるかについて探るものである。そのために、まず既存の海外工場のマザー工場化に関する文献をレビューして、今までの研究成果を整理する。そうすることで、現状を確認し、各研究が打ち出している概念を比較分析する。次に、理論との接点を見つけるために、海外子会社間の知識移転に関する研究を整理する。最後に、それらの結果を用いて海外工場のマザー工場化はどのような要因によって行われるかに対するいくつかの仮説を提示する。

  • ─ホータイ・モーターの事例研究─
    李 建儒
    2023 年 15 巻 1 号 p. 51-63
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/16
    ジャーナル フリー

    本論文は、国際経営における戦略的提携の成功の条件について、知識移転や知識適応化の研究の視点に立ち、さらに長時間が経過して、受け手側の企業が現地国での経験を深めていく中で、そうした企業がいかにして現地市場の変化に伴う適応化を進めていけるようになるのかという現象に注目する。また本論文は、その成功とは、受け手側の企業が現地提携事業の競争優位性の構築と持続を実現したことで、業界のトップを走り続けられることを定義する。

    本論文では、自動車販売業における日本と台湾の戦略的提携の事例に注目して、台湾企業がこの市場変化に伴う適応化に成功していったプロセスを明らかにする。本論文で分析する対象は、ホータイ・モーターである。同社は、トヨタの現地パートナー企業として、その知識を現地に移転させることに成功した。その後、同社は現地市場の消費者の趣向や商慣習、法制度の違いなどに合わせて知識を改良し、現地の状況に適応させていった。さらには、同社は、1987年から約10年後に生じた台湾市場の大きな変化と、それに伴う深刻な販売低迷という経営危機の中で、現地市場の急速な変化に合わせるかたちで、トヨタの方式をシステマチックに変更していった。それにより同社は、この経営危機を乗り越えることに成功したのであった。

    なぜホータイ・モーターは、これらの一連の知識移転、知識適応化、市場変化に伴う適応化のプロセスを成功裡に進めることができたのであろうか。本論文はその問いに答えるために、同社の事例に基づいて、同社が移転された知識を現地市場に合わせていった方法について、その個々の日常のオペレーション(販売管理手法、アフターサービス、情報システム、商品戦略、広告宣伝)レベルの変化にまで踏み込んで明らかにしていく。

    本論文の調査から発見した事実によって、(1)知識移転プロセスでは、台湾側の本部担当者たちが、プロジェクト準備室を通じて駐台日本人経営幹部から販売チャネルの形式知を学習し、個人能力が向上したことがわかる。また、(2)知識の適応化プロセスでは、台湾側の本部と現場の担当者は、トヨタの知識を現地の法制度や消費者特性に合わせて改良した。(3)市場変化に伴う適応化プロセスでは、台湾側の本部担当者たちは、定期的な会議を通じて各部門の情報を共有し、既存の知識体制を内省化することで、現地市場の変化に合わせた改善計画を練り出し、顧客に向けて自らの工夫によって移転・適応化された知識を再度改良した。そして本部と現場の知識を体系化することで既存知識の不適合を解消した。

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