2025 年 17 巻 1 号 p. 45-57
本論文は、コンビニ業界における戦略的提携の事例に注目し、親会社が持つ日本型コンビニの知識(店舗運営、情報システム、物流管理、商品管理)をどのように海外の子会社へ移転し、さらに海外の子会社が蓄積した知識(移転された知識を現地に適応したもの)を、どのように他の子会社の提携事業展開へ移転したのか、そのプロセスを明らかにすることを目的とする。
ファミリーマート(以下、日本FM)は、1988年に現地企業である国産汽車と提携し、台湾ファミリーマート(以下、台湾FM)を設立した。同社は知識移転および適応の成果により、1994年には経営の黒字化を達成した。また、2004年には、日本FMが中国・上海にコンビニ事業を展開する際に、台湾FMの成功経験を活かし、経営形態を早期に直営店からフランチャイズ化へと転換した。
本論文では、日本FMが台湾FMの成功経験をどのように上海事業へ移転したのかを明らかにするため、まず、日本FMの台湾展開における成功プロセスを整理する。さらに、コンビニ事業関係者への取材および当時の報道をもとに、2000年代に日本FMが台湾FMで蓄積した知識をどのように移転し、中国でのコンビニ事業を展開したのかを段階的に分析する。
本論文の事例分析から明らかになった事実として、台湾FMが蓄積した知識を上海FMへ移転するプロセスでは、「共同組織の設置」、「知識の明文化」、「師弟制度の導入」という3つの成功条件が重要である。
本論文は、上海FMの事例研究から得られた成功条件を抽出したことで、海外子会社提携事業間の知識移転のメカニズムを明らかにした。そのメカニズムとして、経営情報の伝達、経営資源の配分、知識の直接関与、蓄積された知識の明文化、経営理念と慣行知識の伝授、現地市場状況への知識の適応といった概念が、海外子会社間の知識移転に有益であることを指摘する。