インド自動車市場では、既存有力企業がインド進出後、既に10年を経過しているにもかかわらず、軒並み苦戦すると言う状況が続いている。本論文では、代表的既存有力企業であるトヨタ自動車の製品開発システムに焦点を絞り、この要因の一端を明らかにする。第1に、インド市場で、従来の良い物を安く(両立型)ではなく、品質性能をある程度割切る事により飛躍的な低価格を実現(割切り型)すると言う異質なコンセプトで造られた小型車の市場が生成していること。第2に、トヨタの高い製品開発能力の源泉の一部である「技術標準」と「系列部品メーカーの徹底した活用」がトヨタの技術に「下方硬直的な特性」を与えており、これが技術の下方シフトが必要なインドの割切り型市場では、トヨタが製品開発に手間取る要因のひとつになっている可能性が高いこと。以上が本稿の論旨である。