国際ビジネス研究
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研究論文
海外生産拠点へのダイナミック・ケイパビリティ移転・構築と経営者サービス
国際自動車プロジェクト(IMVP)調査による定量・定性分析
岩尾 俊兵
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2016 年 8 巻 2 号 p. 69-88

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抄録

近年、David J. Teeceらの研究を嚆矢とするダイナミック・ケイパビリティ(Dynamic Capabilities, DC)論は、国際経営論の分野をその新たな研究対象として捉えつつあり、そこでは海外生産拠点を新規に構築・再統合する能力が(本国の本社が保持する)DCであると論じられている。しかしながら、Teeceに代表されるDC論者は、海外生産拠点を専ら業務能力(決められたことを決められた通りに遂行する能力)のみを移転される存在として捉えることが多く、DC(決められたことの範囲を超えて新たに資源を再構築する能力)は海外拠点を統括する本社に存在するものとみなす傾向がある。Teeceらの上述の見解に反して、日本の製造業は、海外生産拠点に(業務能力に加えて)ある種のDCまでも移転しようと試みているといえる可能性がある。たとえば、日本の自動車産業に属する企業が海外生産拠点に改善活動の活発化を期待し、それを支援している状況がその一例である。上記の可能性は、(近年のDC定義の変遷を念頭に置いた上での)Teeceが想起するより狭義のDC定義を用いる場合には一定の妥当性が担保されよう。

それでは、海外生産拠点に業務能力に加えてDCをも移転する場合に、どのようなマネジメント上の課題が生じるであろうか。この疑問に答えるために、本稿は定量分析と定性分析を行い、結果として「①一般的には(狭義の)DCの移転は遅々として進まないこと」「②一部には(狭義の)DC移転に成功しているように見える海外生産拠点が存在すること」「③DCは資源の再構築が必要であるがゆえに組織内の調整問題に労力が割かれること」「④DC移転の成功事例では、前述した調整のための労力を節約するようなマネジメントの努力がなされていたこと」の4点が明らかになった。

ただし、データの制約やDC定義の問題から、ここでの議論は一般化の段階には至っていないという限界もある。

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