国際保健医療
Online ISSN : 2436-7559
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総説
開発途上国における国際保健活動のためのコミュニティ開発アプローチ
神馬 征峰下開 千春
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2005 年 20 巻 2 号 p. 2_28-2_37

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抄録

近年途上国における日本の国際保健活動対象としてコミュニティ(日本における市町村あるいはそれ以下の地域社会)が注目をあびてきている。ところが、コミュニティを活動の場としたcommunity development(以下CDと略)アプローチの有効性や方法論は日本では十分検討されてこなかった。その原因の一つは地域開発とCDの概念の混乱にある。本研究では、まずこの両者の違いを明確にする。次に国際社会におけるCDの概念の変遷を示す。そして最後にcommunity-based(以下CBと略)アプローチとCDとの違いを明確にし、国際保健活動実施のためにCDアプローチが戦略的に使えるようにすることを目的とする。方法としては、2次資料の文献レビューとその分析を行った。結果として、まずCDにはコミュニティ開発等の訳語を用い、地域開発(regional development)と異なった概念として明確に使い分けるべきことを示した。次に国際社会においてCDの概念は第2次世界大戦後大きく変化してきたことを示した。すなわち、1950年代から1960年代に途上国で実践されたCDはトップダウン式に実施され、その結果多くの批判をあびた。しかし、1980年代から1990年代におけるヘルスプロモーション活動の中で、CDは新たに定義し直され、ボトムアップ方式の保健活動手段として定着してきた。最後に、CB アプローチとCDアプローチの違いである。CB アプローチは専門家主導となるため、短期問題解決型の急性感染症対策などに適している。しかし、それが長期化した場合や、コミュニティが慢性の健康問題を抱えている場合には適さない。一方、CDアプローチは住民主導で実施されるためプロジェクトの持続可能性を高めるのに適している。国際保健の専門家は、CBアプローチとCDアプローチの違いを理解し、途上国のコミュニティ住民の抱える問題の種類に応じて両者を事業計画立案段階からうまく組みあわせることによって、より高い支援効果を得ることができるであろう。

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© 2005 日本国際保健医療学会
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