国際保健医療
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原著
グローバル化する生物医学とローカル化する病気:イエメン山岳地域の事例から
伊達 潤子
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2005 年 20 巻 2 号 p. 2_19-2_27

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抄録

目 的:生物医学をひとつの文化として捉えた場合、「生物医学」文化はグローバル化しているといえる。このグローバル化によって導入される医学的な疾病は、現地の人々に、どのように病気として認識もしくは解釈されていくのか。またその認識は彼らの健康改善にどう影響を与えるのか。以上について、文化人類学的な観点から調査・考察する。
方 法:イエメン共和国をひとつの事例として、近年の保健医療政策の変遷から、生物医学のグローバル化を検証する。また、2000年から2005年に至る文化人類学的調査(参与観察とインタビュー)によって、イエメン国サナア市住民の生物医学と病気の受け止め方を調査した結果から、病気のローカル化と、この現象が住民の健康改善に与える影響を考察する。
結 果:後発開発途上国のイエメンでは、保健医療政策策定において国際機関・各国援助機関の影響を受ける。その政策の推進と、民間レベルにおける診断治療の普及により、生物医学に関わる人間や情報、技術、金融、思想などが動き、生物医学のグローバル化が進んでいる。同時に、このグローバル化によって新しく導入される医学的知見を、従来からの伝統的病気や病気に対する考え方と組み合わせて、住民は彼ら自身が認識する病気としてローカル化している。このローカル化の現象は、病気についての認識を画一化する方向ではなく、多様化する方向に向かわせているといえる。近年、健康改善を目指すため、コミュニティ参加やヘルスプロモーションが推奨されつつある。その推進においては、住民の病気認識と診断治療に対する主体性が重要となる。生物医学の病気が住民によってローカル化されると、その病者の位置づけが社会的に与えられるとともに、病者自身も含めた彼らの独自の解釈による病気・病者への対応が生まれる。このため、病気のローカル化は健康改善に対してインパクトがあると考えられる。
結 論:生物医学を文化とした場合、そのグローバル化は地域住民の病気認識と行動にかなりの影響を与える。それと同時に、住民にそのグローバル化が受け入れられる過程で病気はローカル化され、そのローカル化の様相は、住民の健康改善にもインパクトを与えていく。生物医学の診断治療と、ローカル化された病気に関わるヘルスケアがどう相補できるか、それが住民の健康改善にどうインパクトを与えるのかについて、さらに文化人類学的観点からの調査が望まれる。

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© 2005 日本国際保健医療学会
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