国際保健医療
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タイの大洪水の被災者の健康への影響-医療支援活動に基づく記述
山川 路代Pairoj Khruekarnchana頼藤 貴志大政 朋子土居 弘幸
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キーワード: 自然災害, 洪水, タイ, 公衆衛生
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2012 年 27 巻 2 号 p. 183-189

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抄録
目的
洪水は、世界中で最も頻度の高い自然災害の一つとされているが、洪水による健康影響については、感染症に比べて、感染症以外の疾病に関する報告は少ない。タイにおいては、2011年の多雨の影響で、北部や中部地方を中心に大洪水が発生し、多くの住民に深刻な影響をもたらした。長引く洪水下にある被災地住民の健康問題を検討するための資料を提供するために、本研究では、タイにおいて洪水に被災して1か月以上が経過した地域の患者に多く見られた症状を報告することとした。
方法
2011年11月末、タイ国中部地方の2県3地域において、日タイのNGOが協同で実施した医療支援活動を対象とした。データは、活動に訪れた患者の診療記録から収集し、そのうち2地域では巡回診療の記録についても収集した。患者の診療記録から、性別、年齢、確認された症状、地域及び診療地の情報も抽出した。活動の診療地には、郡役所あるいはその周辺に設置され、患者が診療に訪れた活動拠点、巡回診療先として寺や学校、集団生活用に設置されたテントが含まれた。これらの情報を用いて、地域別に患者の属性や確認された症状の分布を検討した。高い頻度で見られた症状については、診療地や患者の年齢で層別して、分布の特徴を検討した。
結果
全ての地域の患者において、筋・関節痛、慢性疾患、急性呼吸器感染症が高い割合で見られた。急性呼吸器感染症については、上気道感染症が96%以上を占めていた。診療地で層別分析した結果、学校に避難していた患者における急性呼吸器感染症の有病割合が他の避難所と比べて高かった(39%)。また、筋・関節痛の有症状割合は30歳代から急増し、特に40歳、50歳代の患者において最も高かった。
結論
タイの長引く洪水下にある地域の患者において、筋・関節痛、慢性疾患、急性呼吸器感染症が多く確認された。本研究は、長引く洪水が発生した際に生じうる健康問題に関する一つの資料になると思われる。今後、洪水の発生と筋・関節痛との関連については、さらに検討の必要がある。
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© 2012 日本国際保健医療学会
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