国際保健医療
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二国間経済連携協定(EPA)による外国人看護師候補者の就労研修期間における体験
山本 佐枝子樋口 まち子
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2015 年 30 巻 1 号 p. 1-13

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抄録

目的
  EPAに基づき来日した外国人看護師候補者の医療現場や日常生活における多様な体験を明らかにする。
方法
  2008年から2010年にEPAに基づき来日した第1陣から3陣のインドネシア人看護師と、第1陣から2陣のフィリピン人看護師のうち計16名を対象に半構造化面接によりデータ収集を行い、修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチを参考に質的帰納的に分析した。
結果・考察
  EPAによって来日した外国人看護師候補者の就労研修期間の体験として、《看護師としてのアイデンティティの揺らぎ》と《人間関係構築の明暗》の2つのカテゴリーおよび10のサブカテゴリーが抽出された。看護師候補者は受入れ病院で〈日本の看護の体験的学び〉をし、〈自国の看護との比較〉をしつつ、国家試験に合格するまでは〈看護師として働けない〉ことや〈看護専門職としての技術喪失の不安〉から、《看護師としてのアイデンティティの揺らぎ》を感じていることが明らかとなった。そして、アイデンティティの揺らぎを感じながらも、看護師候補者は自らの存在価値を意味づけ、揺らぎを乗り越えようとしていた。また、配属された病院で〈研修に臨む姿勢の形成〉や、〈新たな環境での葛藤〉をし、〈病院スタッフとのかかわり方の戸惑い〉を感じつつも、就労を通して〈病棟スタッフへの強い信頼感〉や〈病棟スタッフへの希薄な信頼感〉が醸成されるという《人間関係構築の明暗》をもたらしていた。さらに、看護師候補者は〈EPAだからこそある人脈〉を活用し、課題や困難に対応して〈険しい国家試験合格への道のり〉を辿っていたことが明らかとなった。看護師候補者は、関係する病院スタッフや患者との人間関係づくりに困難を感じ、それを乗り越えるために試行錯誤していたと考えられる。
結論
  EPAによって来日した看護師候補者は、就労研修期間中に直面した看護師としてのアイデンティティの揺らぎを、自らの存在価値を意味づけることで乗り越えようとしていた。また、自国との看護ニーズの相違による知識や技術の不足や、関係するスタッフや患者との人間関係づくりに苦慮しており、受け入れ病院は看護師候補者自身の背景や具体的な対応について、関係者への事前の周知と、個々の状況に則した日常的サポートの必要性が示唆された。今後、さらに、看護師候補者が直面している問題を随時詳細に把握し、時宜に則した支援の仕組み作りと強化が望まれる。

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© 2015 日本国際保健医療学会
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