国際保健医療
Online ISSN : 2436-7559
Print ISSN : 0917-6543
30 巻, 1 号
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資料
  • 山本 佐枝子, 樋口 まち子
    2015 年30 巻1 号 p. 1-13
    発行日: 2015/03/20
    公開日: 2015/04/03
    ジャーナル フリー
    目的
      EPAに基づき来日した外国人看護師候補者の医療現場や日常生活における多様な体験を明らかにする。
    方法
      2008年から2010年にEPAに基づき来日した第1陣から3陣のインドネシア人看護師と、第1陣から2陣のフィリピン人看護師のうち計16名を対象に半構造化面接によりデータ収集を行い、修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチを参考に質的帰納的に分析した。
    結果・考察
      EPAによって来日した外国人看護師候補者の就労研修期間の体験として、《看護師としてのアイデンティティの揺らぎ》と《人間関係構築の明暗》の2つのカテゴリーおよび10のサブカテゴリーが抽出された。看護師候補者は受入れ病院で〈日本の看護の体験的学び〉をし、〈自国の看護との比較〉をしつつ、国家試験に合格するまでは〈看護師として働けない〉ことや〈看護専門職としての技術喪失の不安〉から、《看護師としてのアイデンティティの揺らぎ》を感じていることが明らかとなった。そして、アイデンティティの揺らぎを感じながらも、看護師候補者は自らの存在価値を意味づけ、揺らぎを乗り越えようとしていた。また、配属された病院で〈研修に臨む姿勢の形成〉や、〈新たな環境での葛藤〉をし、〈病院スタッフとのかかわり方の戸惑い〉を感じつつも、就労を通して〈病棟スタッフへの強い信頼感〉や〈病棟スタッフへの希薄な信頼感〉が醸成されるという《人間関係構築の明暗》をもたらしていた。さらに、看護師候補者は〈EPAだからこそある人脈〉を活用し、課題や困難に対応して〈険しい国家試験合格への道のり〉を辿っていたことが明らかとなった。看護師候補者は、関係する病院スタッフや患者との人間関係づくりに困難を感じ、それを乗り越えるために試行錯誤していたと考えられる。
    結論
      EPAによって来日した看護師候補者は、就労研修期間中に直面した看護師としてのアイデンティティの揺らぎを、自らの存在価値を意味づけることで乗り越えようとしていた。また、自国との看護ニーズの相違による知識や技術の不足や、関係するスタッフや患者との人間関係づくりに苦慮しており、受け入れ病院は看護師候補者自身の背景や具体的な対応について、関係者への事前の周知と、個々の状況に則した日常的サポートの必要性が示唆された。今後、さらに、看護師候補者が直面している問題を随時詳細に把握し、時宜に則した支援の仕組み作りと強化が望まれる。
  • 高橋 競, 神馬 征峰
    2015 年30 巻1 号 p. 15-21
    発行日: 2015/03/20
    公開日: 2015/04/03
    ジャーナル フリー
      長年にわたるゲリラや麻薬組織との内戦の結果、コロンビアには今も多くの地雷が残されており、地雷被災者支援が社会問題になっている。本稿は、コロンビアにおける地雷被災者支援の最新の動向をまとめ、今後の課題について検討することを目的とした。
      コロンビアの地雷被災者支援においては、政府機関、非政府機関、国際機関、当事者組織が重要なアクターとなっている。政府機関による法制度の整備、非政府機関による権利啓発や医療ケアの提供、国際機関による資金援助や技術協力、そして当事者組織によるネットワーキング等が進められている。
      しかし、地雷被災者支援には未だに多くの課題が残っている。第一の課題として、支援サービスへのアクセシビリティがある。地雷は医療資源の少ない山間部に集中していることから、地雷被災者が適切な治療を受けるまでに多くの時間が必要になっている。次に、地雷被災者による社会参加も大きな課題である。都市に搬送された地雷被災者の多くは、地雷に汚染された故郷に戻ることができない国内避難民となる。頼れる親族から切り離され障害を負った地雷被災者が、都市部で生活を再建していくことは簡単ではない。さらに、地雷被災者の心のケアも大きな課題である。地雷被災者の多くは、心的外傷後ストレス障害等の精神的問題に苦しんでいる。しかし、目に見えにくい心のケアに必要な資源は乏しい。
      コロンビアにおいて支援を必要とする地雷被災者の累積数は増え続けており、包括的な地雷被災者支援体制の構築が必要とされている。
  • 妻田 直人, 髙木 廣文, 佐山 理絵
    2015 年30 巻1 号 p. 23-31
    発行日: 2015/03/20
    公開日: 2015/04/03
    ジャーナル フリー
    目的
      看護師の離職や不均衡が問題となっているタイ王国で、地域定着の問題を検討するために、Health Center(以下HC)で働く看護師の職務満足と宗教行動や勤務状況の関係を明らかにする。
    研究方法
      タイ王国北部パヤオ県にあるHCで働く全看護師192名を対象に、基本属性、宗教行動、セルフエフィカシー、職務満足に関する無記名自記式質問紙調査を行った。回収数は135名、回収率は70.3%であった。男7名は少数のため分析から除外し、女128名のみを解析対象とした。
      基本属性間はクロス集計とχ検定を行い、セルフエフィカシー、職務満足に関しては、2群の母平均値の差の検定、一元配置分散分析、相関係数の計算と検定を行った。有意水準は5%とした。
    結果と考察
      職務満足度尺度得点と1日の瞑想回数には、有意な相関(r=0.22、p=0.04)が認められた。瞑想によって自己をみつめ、心身をリラックスしストレスの低減を図ることが、職務満足の向上に関係するのではないかと考えられた。
      給料が「高い・普通」とした群と、「低い」とした群の間で、職務満足度尺度得点に有意差が認められた(p<0.01)。同様に、転職を考えたことがある群と、ない群の間で職務満足度尺度得点に有意差が認められた(p<0.01)。これらの点は、日本での研究報告結果と符合していた。
      職場選択理由で、「人の役に立ちたい」とした群と「宗教と仕事は関係ない」とした群の間で、職務満足度尺度得点に有意差が認められた(p=0.04)。HCは地域の住民と密に接する場所である。「人の役に立ちたい」とする看護師は、モチベーションを高く維持することができ、職務に満足して仕事を行うことができるものと考えられた。
    まとめ
      タイ王国においても、日本と同様に転職や給料などが職務満足に関連する要因として指摘された。職務満足と宗教行動、とくに瞑想することと関連があることが示唆された。出身地に戻って仕事ができる環境作り、その地域の他の人々の役に立ちたいと思えるような職場環境の整備をすることにより看護師の職務満足を高め、離職を予防することができるものと考えられた。
書評
30周年記念寄稿
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