背景
NPO法人ジャパンハートは2018年カンボジアにこども医療センターを開設し小児がんの診療に取り組んでいる。カンボジアの多くの公立病院では栄養管理された給食提供はなく、患者の食事は家族が準備する必要がある。一般的に患者家族は衛生や栄養に関する知識が乏しい中、食事を病院周辺の屋台で購入し患者に与えており、治療に必要十分な栄養摂取は難しい。当院においても、小児がん患者の治療にあたり同様の課題があった。さらに、カンボジアに栄養士制度はなく医療者でさえ栄養を学ぶ機会が少なく、栄養に関する知識が乏しい。特に、患者に対し効果的な治療のために衛生的で栄養のある食事が不可欠と考えた。そこで、患者が入院中および退院後も衛生的で栄養のある食事摂取ができることを目的とし2019年「ジャパンハートこども医療センター給食プロジェクト」を開始した。栄養士資格を持たない現地人調理スタッフを育成し給食を通じた小児がん患者の栄養改善に取り組んでいる。本活動報告の目的は栄養士資格を持たないカンボジア人スタッフによる病院給食提供や栄養教育の効果を測定すること、これらによる小児がん患者の栄養状態の変化を明らかにすることである。
方法
小児がん患者を給食提供と栄養状態アセスメントの、付き添い家族を栄養教育の対象とした。日本人栄養士・調理師が勉強会や衛生マニュアル作成、最低食事多様性水準(MDD)を参考とした献立基準作成などを行い、現地人調理スタッフが給食提供や衛生・栄養教育をできるよう育成した。衛生的で栄養バランスの良い給食を提供するために、マニュアルに基づく衛生管理や献立基準に基づいた献立作成、喫食率測定などを行った。また、患者家族に対し衛生・栄養教育を行い、知識や意識の改善を図り教育の前後で調査を行った。さらに、身長体重測定を行い、WHO Growth Chart BMI for ageにより栄養状態評価を行った。
結果
献立のMDD達成率は72%から100%(開始後1週目−2週目(2021年1月))に増加し、月平均喫食率は45.9% から最大80.5%に増加した(2020年4月~2022年1月)。衛生・栄養教育実施前後の調査では89.1%の患者家族に知識や意識の改善が見られた。身長体重をBody Mass Index(BMI)で評価し、BMI for age≤−2SDの割合が入院時28.1%から退院時(最終測定時)15.9%に減少した。
結論
日本人栄養士・調理師の関与により、現地人調理スタッフが衛生や栄養に配慮した給食を提供することを通じ、患者の栄養状態の改善に寄与することができた。栄養士制度のないカンボジアで栄養改善活動を持続するためには、栄養を専門としない現地人が実現可能な活動内容で取り組むことが重要である。さらに栄養面からの治療をサポートしていくために、カンボジア国内における栄養人材の育成が望まれる。