2002 年 4 巻 1 号 p. 17-26
近年,毎年のように各地で生じている自然災害の犠牲者の多くは,高齢者や障害者をはじめとする災害弱者で占められており,災害弱者の避難対策は猶予の許されない課題となっている.とりわけ,身体的に制約を抱える高齢者は災害時において自力避難が困難な状態になりやすいため,避難行動は身内や近所のなど周囲からの避難援助に大きく委ねられることになる.しかし,これら災害弱者は,核家族化の進展や,地域コミュニティにおける近隣関係の希薄化により,社会的に孤立しているケースも多く,身内や近隣住民などからの避難援助が得られない場合,避難から取り残されることも危惧される.そこで,本研究では,平成10年8月末福島県郡山市における洪水災害を事例に老人クラブに加入している高齢者の避難行動や避難援助の実態を明らかにし,高齢者に対する避難援助のあり方を検討した.その結果,高齢者への避難援助は,身内のみならず近隣住民からも積極的に行われており,援助要請を行った高齢者においては,その全てが周囲から援助を得られるなど,地域コミュニティの重要性が明らかとなった.しかしその一方で,高齢者の中には,援助の必要性があると考えられるにも関わらず援助ニーズを自覚しない人,または高齢者に多く見られる遠慮といった意識特性から援助を希望しつつも周囲に対し援助を要請しない高齢者の存在が確認され,必ずしも避難援助が全てに行き渡るとは言えない状況にあることが明らかとなった.