抄録
本稿は,明治・大正期に用いられた一人称代名詞「よ」「わがはい」について,その用法と通時的変化を概観するものである.用例の調査対象資料として,1895年から1928年にかけて発行された総合雑誌『太陽』に基づく『太陽コーパス』を用いた.調査の結果,「よ」は地の文で用いられ,会話では用いられない傾向があるのに対し,「わがはい」は地の文だけでなく会話でも用いられる傾向が見出された.「よ」は改まった性質を持ち,「わがはい」はくだけた性質を持つと見なされる.また,「よ」は明治末期から大正前期にかけて衰退が始まり,大正末期にはごくわずかしか用いられなくなったと見なされる.「わがはい」も同様に大正末期には衰退した.