2009 年 12 巻 1 号 p. 80-92
本稿は,英語で研究活動を行う大学院のコース(以下,英語コース)に在籍する留学生の日本語教育の必要性について,会話分析により明らかにされた英語から日本語へのコードスイッチング(CS)の働きを通して考察する.本研究では,日本人学生と留学生の英語をペース言語としたグループディスカッションを分析対象とし,「日本人学生の参加促進」という観点からCSが使用言語による参加者の関係,及び日本人学生のターンに及ぼす影響を調べた.その結果,英語のみの使用では「英語非母語話者同士」である日本人学生と留学生が局所的に日本語へCSすることで,両者の間に「日本語母語話者-非母語話者」,「日英混合話者同士」という関係が構築され,英語使用に慣れていない日本人学生の参加を促しつつ,やりとりが進められることがわかった.日本人学生のターン獲得数,及びその内容からもCSが日本人学生の参加を促進することが示された.日本人学生と留学生間の英語のコミュニケーションを促進するこうした日本語の働きは,留学生が研究室という実践共同体に参画し,その一員として研究活動を進めることを助けるものである.このような結果から,英語コースの留学生にも研究の遂行のために日本語能力が必要であり,彼らに対する日本語教育では,特に研究仲間との円滑な人間関係の構築を可能にするコミュニケーション能力の養成が求められることが示唆された.