従来,認知的アプローチに基づく研究が主流を占めていた第二言語習得研究において,近年,社会的視点に基づく研究への注目が高まっている.社会的視点に基づく研究は,会話分析,社会文化理論,エスノグラフィー,言語社会化といったさまざまなフレームワークを有しているが,言語を媒介とする活動や相互行為が協働的に達成されること,人間の知識は社会的に分散されていること,知識の生成や発達にはコミュニティでの目標志向的な実践への参加が不可欠であること,などの前提を共有している.本稿ではまず,第二言語習得研究における認知的視点との比較から,社会的視点の基本的考え方を明らかにする.ここでは,コミュニケーション,第二言語習得,アイデンティティ,第二言語使用者,研究の方法論に焦点が当てられる.そして,自然状況および教室での相互行為や,第二言語能力に関する最近の研究例を紹介する.これらの研究は,相互行為の詳細な分析を通じて,相互行為の組織化と修復,アイデンティティの構築,実践への参加の変化といった問題を考察している.また最後に,第二言語の使用と習得に関する今後の研究課題についても考察する.特に,教育実践への応用を視野に入れた具体的な研究の方向性として,教材分析への応用,教育活動の編成,第二言語能力の評価を取り上げる.
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