抄録
本研究では,日本語多人数会話における視線行動を分析し,視線と話者交替との関係を明らかにする.とくに,次話者が自己選択するケースに焦点をあて,i)話し手の視線の向け先である聞き手が次話者になるのか,ii)視線の向け先以外の聞き手が次話者になる場合があるとしたら,いかにしてそのようなことが起こるのかを明らかにする.視線方向が付与された3人会話データ12組を定量的・定性的に分析した結果,i)隣接ペアが用いられない場合でも,話し手に視線を向けられていた聞き手が次話者として自己選択しやすいという一般的傾向があることがわかった.さらに,ii)この傾向に反して視線の向け先以外の聞き手が次話者になるのは,a)視線を向けられていた聞き手が次発話を回避したり,期待された反応や連鎖上適切な発話を行わなかったりするとか,b)話題に関する知識や同意/不同意といったスタンスの共有の点から話し手と同じカテゴリーに属しているといった条件が必要であることがわかった.これらの結果は,話し手の視線の向け先が次話者になることへの優先性を示している.