社会言語科学
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二者間の手話会話での順番交替における視線移動の分析(<特集>相互作用のマルチモーダル分析)
菊地 浩平
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2011 年 14 巻 1 号 p. 154-168

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抄録
本研究は日本手話という特定の言語使用による二者会話が行われる際,参与者が互いの視線を調整することによって順番交替を秩序立てていることを,会話分析的手法によって例証することを目的としている.従来の手話言語研究は手話という言語がマルチモーダルな特性を持つ言語であることを明らかにしてきたが,相互行為的観点から手話をとらえようとする研究が継続的に発表され,知見が蓄積されるようになってきたのはここ10年ほどの間である.本研究ではこういった現状を踏まえ,特に順番交替時の参与者の視線移動および発話重複を会話の中の相互行為秩序という観点から分析した.分析の結果次の知見が得られた.1つは,現在の話し手が想起することと関わって外していた視線をTCUの完了点よりも前に聞き手に向け直すことがTRPを投企しているということである.もう1つは同時に発話が開始されることによって生じる話し手の競合を解決する装置として参与者の視線が利用されていることである.つまり手話を用いて相互行為を組織化して行くにあたって,視線はきわめて重要な位置を占めているのである.本研究での議論が,今後手話を相互行為研究の俎上にのせ,会話における多様な相互行為現象を分析する際の一助となることが期待される.
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© 2011 社会言語科学会
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