社会言語科学
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医療面接における謝罪表現に対する患者と医師の認識(<特集>ウエルフェア・リングイスティクスにつながる実践的言語・コミュニケーション研究)
辛 昭静石崎 雅人三浦 純一
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2013 年 16 巻 1 号 p. 65-79

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抄録

本研究では,SD法を用いて患者と医師の診療場面における謝罪表現に対する認識を調査し,その結果を統計的に分析するとともに,医師の謝罪によって関係が良くなった/悪くなった経験を記述してもらい,その記述を分析した.謝罪表現に対する認識の統計分析により,(1)〜(3)を明らかにした.(1)患者・医師ともに,深刻度の高い場面で使われた謝罪に対しては否定的な評価を下しているのに対し,深刻度の低い場面で使われた謝罪に対しては肯定的な評価を下していた.(2)診療場面における謝罪の使用に関しては,患者よりも医師の方がより敏感に受け止めていた.(3)患者の場合,深刻度が高い場面において,中高齢層グループよりも若年層グループの評価がより否定的であった.さらに自由記述の分析により以下の知見を得た.《医師が謝ることで患者と医師の関係が良くなった例》として,患者・医師共に「(待ち)時間」をあげている人が最も多かった.他方,《医師が患者に謝ることによって,両者の関係をかえって悪くしてしまった例》については,患者の方は「心理的影響(医師への不信感/不安の助長)」に関する記述が多かったのに対し,医師の方は「患者の誤解」に関する記述が多かった.これらの分析から,医師による謝罪行為が「時間」のように診療内容・結果と直接関係がない場合には,人間関係を調整する機能として働き,患者と医師の良い関係作りに貢献できるが,診療内容・結果と直接関係がある場合には,必ずしも良い結果につながるとは限らないことが示唆された.

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© 2013 社会言語科学会
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