社会言語科学
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診療コミュニケーションにおける非対称性 : 日米比較(<特集>ウエルフェア・リングイスティクスにつながる実践的言語・コミュニケーション研究)
大瀧 祥子
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2013 年 16 巻 1 号 p. 80-95

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抄録

診療コミュニケーションの非対称性が注目されて久しいが,文化との関連で検討されることはほとんどなかった.本稿では,日本の診療コミュニケーションにおける非対称性への文化の影響を明らかにするために,日米の診療現場で録音し文字転写したデータを質的・量的に比較談話分析した.分析の結果,日本の診療現場では,1.始め方手順の簡略化,業務開始の両義性,2.質問・応答における(協同順番連鎖やあいづち等による)支え合い,3.終わり方の慣習的な簡略化と非相互性などがみられ,これらを通して特殊な非対称性が示された.医師と患者が協調して診療秩序を保持する中で,高コンテクストで関係重視の文化的想定(期待)が共有され,非対称的な相互行為がより温存される傾向が示唆された.医師・患者間コミュニケーションの非対称性は両者の社会的力との関係で問題視されることが多く,依存的な支え合いの中での非対称性は,より個人の独立や平等を期待する人々から誤解を生じやすい.文化差によるコミュニケーション慣習の違いを認識することが,よりよい医師・患者関係の構築に役立つと思われる.

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© 2013 社会言語科学会
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