本稿は,グローバル社会へのウェルフェア・リングイスティックスとして場の語用論を提唱する.場の語用論は,西欧の言語文化を基に構築された語用論の前提に疑義を挟み,その限界を補完する革新的な語用論のアプローチである.場の語用論では,第一に,言語事象を外在的/客観的視点でなく内在的視点で捉える.第二に,言語主体の自己が自己中心的領域と場所的領域という二領域性から成り立ち,その二領域が同時に活(はたら)いていると考える.これらの前提をもつ場の語用論を援用することより,これまで叶わなかった談話事象,例えば会話内記号切り替えがオートマティックに行われるメカニズムや復唱,斉唱などの談話のメカニズムなどを説明できることを論じた.場の語用論は,既存の語用論の枠組みから解き放たれ,非欧米の人々の言語実践も含めてより広い視点で言語事象を解明するための解放的語用論へのひとつの試みである.