社会言語科学
Online ISSN : 2189-7239
Print ISSN : 1344-3909
ISSN-L : 1344-3909
研究論文
手話相互行為における即興手話表現―修復の連鎖の観点から―
坊農 真弓
著者情報
ジャーナル フリー

2017 年 19 巻 2 号 p. 59-74

詳細
抄録

言いたいことがあるがそれを言い当てる表現や単語が思い浮かばないといった経験は誰にでもあるだろう.本論文では,手話話者がこういった問題をいかに解決しているのかを一つの断片を詳細に分析することを通して考える.手話に限らずすべての相互行為において,表現や単語が思い浮かばないなどの問題(トラブル)が生じた場合,それまで展開されていた語りややりとりは一旦停止され,別のトラックに移り,その問題が解消されたのち,元のトラックに返ることがある.社会学を祖とする会話分析の分野ではこの区間を「修復の区域(repair segment)」と呼ぶ.本論文では,手話相互行為においてもそういった修復の区域が存在することを前提とし,そこで手話話者らは手話特有の「即興手話表現」という方法で修復の操作を行い,問題を解決していることを指摘する.分析では,音声相互行為を対象とした会話分析における修復の連鎖の枠組みを利用し,SMUアノテーションを付与したデータを細かく見ていった.分析の結果,筆者が即興手話表現と呼ぶ,表したい対象を言い当てるために,手話言語の語彙として広く知られている語彙(ネイティブ語彙)と音声言語由来の指文字から派生した語彙(非ネイティブ語彙)の組み合わせや意味の近い語彙で代替するなどのいくつかの手法が観察された.

著者関連情報
© 2017 社会言語科学会
前の記事 次の記事
feedback
Top