本稿は,日本語を上層(語彙供給)言語とする「宜蘭クレオール」の指示詞について論じるものである.「東岳村」で得たデータをもとに考察を行った結果,次のようなことが明らかになった.まず,宜蘭クレオールの指示詞は,日本語由来の形式が取り入れられているが,アタヤル語と同じく近称と非近称の二項対立をなしている.次に,日本語と同様,指示代名詞・指示形容詞・指示副詞にわけることができるが,基層言語であるアタヤル語からの影響や傍層言語である華語からの影響,習得の普遍性からの影響を受け,日本語とは異なる用法に変化している.そして,世代間変異の様相から,変化のプロセスを捉えることができた.