本研究は,性的少数者に関する研究の中でも異性愛者(ヘテロセクシュアル)–同性愛者(ホモセクシュアル)という二項対立の議論では俎上に上がらないバイセクシュアル(両性愛者)やそのアイデンティティについて取り上げ,それが語りの場においてどのように構築されているのかを分析したものである.この結果,1)先行研究で述べられているような両性愛者に対する位置づけが,語り手本人である自己の視点および語り手が取り入れた他者の視点によってなされていること2)語り手は自らのバイセクシュアル・アイデンティティやその位置づけを,異なる側面を前景化しながらコンテクストに応じて展開すること3)語られたバイセクシュアルとしての経験には,文化的差異が関与していることが明らかとなった.