社会言語科学
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研究論文
環境に動機づけられた手話相互行為空間の構築―多人数フィジー手話相互行為における空間使用の分析から―
佐野 文哉
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2019 年 22 巻 1 号 p. 187-202

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抄録

本研究の目的は,フィジー手話話者が,手話の空間使用の相互行為的な問題にどのように対処しているのかを解明することである.手話の空間使用にかんする従来の研究は,手話話者が,身体の前方に広がる「手話空間」を活用することでさまざまな言語的情報を表現していることを解き明かしたと同時に,手話の空間使用の多様性を明らかにしてきた.しかしそれらの研究は,手話の言語的特徴の解明を主要な目的としていたため,「いかに他者と空間を共有するか」といった手話の空間使用における相互行為的な問題に手話話者がいかに対処しているのかについては明らかにされてこなかった.本研究では,以上の問題点をふまえて,話者にとって馴染みのある環境で交わされた自然な多人数フィジー手話相互行為の事例をとりあげ,そこにおける空間使用について相互行為的な観点から分析を行なった.その結果,(1) フィジー手話話者は,空間使用における相互行為的な問題に対処するうえで,話者同士が共有する背景知識や周囲の環境に依拠した実環境指向的な空間使用を選好していること,(2) 背景知識や周囲の環境に依拠した空間の反復的共有をとおして,相互行為の場全体に,個々人の手話空間には還元できない構文的・相互行為的な空間―手話相互行為空間―が共同構築されていることが明らかとなった.

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© 2019 社会言語科学会
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