社会言語科学
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研究論文
在日ブラジル人移民のコイネー形成―方言接触,創始者効果,フィーチャープールの検証―
松本 和子奥村 晶子
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2019 年 22 巻 1 号 p. 249-262

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抄録

本稿は変異理論を用いた在日日系ブラジル人コミュニティの方言・言語接触とコイネー形成に関する研究の一端を報告するものである.茨城県常総市のブラジル人コミュニティにおいて一世と二世の計60名より収集した民族誌(方言背景,社会的ネットワーク),単語の読み上げ,自然談話データのうち前二者に対象を絞り定性・定量分析を行った.理論的枠組みとして「コイネー化のプロセス」,「創始者効果」,「フィーチャープール」,「コロニアルラグ」を採用し,ブラジルポルトガル語の「Strong-R」に焦点を当てた.本稿は移民一世のもたらしたブラジルポルトガル語の諸方言が常総市で接触した結果として平準化が起こり,それが二世に継承されてさらに収束の方向へ変化が加速する一方で,競合する言語である日本語からの影響が強まるという進行中の言語変化を捉え,さらにその諸要因を究明した.同時に,大多数の一世の出身方言であるブラジル南東部・南部方言が二世のポルトガル語変種の基盤となっていることを提示し,在日ブラジル人コミュニティのコイネー形成における創始者効果とコイネー化のプロセス,フィーチャープールの概念の有効性を実証した.さらに日本からブラジルへ渡った邦人移民とその子孫がブラジル南東部・南部方言地域に集住する傾向があることを指摘し,日本各地に誕生した他の在日ブラジル人コミュニティにおいても類似した方言構成,ひいては類似したコイネーが形成される可能性を示唆した.

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© 2019 社会言語科学会
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