2022 年 25 巻 1 号 p. 214-229
本稿は,①日本語を母語とする日本語教師はどのような特徴を持つナラティブ作文を高く評価するのか,②日本語のナラティブの上位作文を評価する際,評価者によって重視する項目が異なるのか,異なるとしたら,どのような違いがあるのか,について明らかにすることを目的とする.調査では,日本の大学で日本語の作文指導をしている日本語母語話者教師20名に,海外の大学で学ぶ日本語学習者による10編の作文を評価してもらい,その中の上位4編の結果を用いて分析を行った.その結果,①については,〈メインポイントの明確さ〉〈興味深さ〉〈一貫性〉〈過不足ない描写〉〈順序立て〉〈正確さ〉を,ナラティブ作文の上位作文で順位を決定する際の重要な要素としていることがわかった.②については,まずクラスター分析をした結果,4つのクラスター(評価者グループ)に分けられた.各グループの評価者が作文を評価した際の自由記述を分析し,その特徴からそれぞれ,「日本語の正確さ・具体的な描写重視グループ」「厳密な課題達成重視グループ」「曖昧さ・わかりにくさ低評価グループ」「焦点を絞った描写・構成重視グループ」と名付けた.以上のことから,教師は他の評価者が自分とは異なる観点から作文を捉え,評価やコメントを行う可能性を認識した上で,学習者の作文を評価,指導する必要があることが示唆された.