社会言語科学
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25 巻, 1 号
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特集「『コロナ禍』と社会言語科学」
巻頭言
寄稿
  • 串田 秀也
    2022 年 25 巻 1 号 p. 6-23
    発行日: 2022/09/30
    公開日: 2022/10/19
    ジャーナル フリー

    今日の医療では,意思決定への患者の参加を促進することが重要な目標とされているが,これを実現することの困難もつとに指摘されている.実際の診療でどのように意思決定がなされているのかを詳細に調べることが重要である.本稿では,診療場面で医師が治療法を勧めるときに用いる非明示的な発話形式の働きを会話分析の視点から分析する.非明示的勧めは,明示的な勧めとは異なり直ちに意思決定を行うことを患者に要求しない.この性質ゆえ,それは医師が複合的勧めを産出したり,意思決定に慎重にアプローチしたりするときにしばしば用いられる.後者の用法では,患者が勧めに対する自分のスタンスを非公式に提示することを可能にし,勧めをめぐる非公式な交渉の機会を作り出すことで,意思決定への患者参加の可能性が拡大されている.非明示的勧めを用いた意思決定は,「共有された意思決定」の理念的モデルが描く意思決定とは距離があるが,日常的診療の中で意思決定への患者参加を促進する1つのやり方になっている.

展望論文
  • 池田 庸子
    2022 年 25 巻 1 号 p. 24-38
    発行日: 2022/09/30
    公開日: 2022/10/19
    ジャーナル フリー

    2020年度初頭に始まった新型コロナウイルス感染症の影響により,多くの大学でオンライン授業に切り替わり,日本へ留学予定だった学生もオンラインで「留学」することとなった.コロナ禍以前から日本語教育において海外と国内の学習者をつなぐ遠隔交流授業が行われており,多くの実践報告や研究がなされてきた.本稿では,これまでの遠隔授業の成果と意義を概観した上で,オンラインにおいても学習者がコミュニティに参加できる「場」が重要であることを論じた.さらに,日本の大学に留学した学習者3名にインタビューを行い,彼らが何を求めて留学し,2020年の学びをどう評価しているのか彼らの語りから検証した.その結果,日本の生活を体験することが留学の目的であったこと,教育の成果は評価しているものの,人間関係の構築やコミュティへの参加は困難であると感じていたことが明らかとなった.オンラインによる授業・交流が多様なコミュニティを形成する場の一つとして最大限に活用されるためには,コミュニティ参加を促す仕組みを組み込むことが重要であることを述べた.

研究論文
  • 石黒 圭
    2022 年 25 巻 1 号 p. 39-54
    発行日: 2022/09/30
    公開日: 2022/10/19
    ジャーナル フリー

    本論文は,対面コミュニケーションに比べ,話し合いへの参加者の積極的関与が失われ,参加者間の社交が困難になりやすいとされるオンライン・コミュニケーションについて,大学院のオンラインゼミの談話データを用いて,豊かなコミュニケーション活動が行われていることを質的な分析によって明らかにしたものである.参加者の積極的関与については,参加者同士の協力によって話者交替が積極的に行われ,沈黙による気まずさが回避される多様な方略が用いられ,参加者の話し合いへの積極的関与が失われているわけではなく,別の形で維持されていることがわかった.また,参加者間の社交については,オンライン会議ツールで共有されるビデオや音声に積極的に言及することで社交的な発話を行い,接続トラブルや研究上の困難を参加者間で協力しながら解決することで,信頼関係を醸成する姿が明らかになった.

  • 細馬 宏通
    2022 年 25 巻 1 号 p. 55-69
    発行日: 2022/09/30
    公開日: 2022/10/19
    ジャーナル フリー

    コロナ禍によって,仕事のツールとして在宅勤務でのオンライン・ミーティングが導入されることが増えてきた.こうしたミーティングでは,仕事中に子どもが参入する事態が起こりうる.仕事と子育てが葛藤を起こすこのような状況で,子どもはどのように大人が自明としている世界に参与することができるだろうか.本研究では,BBCニュースのインタビューでインタビュイーの子どもが入り込んだ事例を発話,視線変化,身体動作に注目して詳細に分析し,この問題を検討した.事後の報道では子どもの発話と行動の一部が切り取られ,子どもはあたかも大人のルールに「侵入」したかのように扱われていた.しかし,分析の結果,子どもは単に仕事中の母親とのコミュニケーションを一方的に求めるのではなく,母親と司会者の行動をもとに,その場で為しうる行動は何かを読み解き,発話・視線・動作のタイミングを調整していることがわかった.また,子どもは司会者による名前を用いた呼びかけの形式を資源として用い,その形式に沿った発話連鎖を組織化することで,コミュニケーションを維持していた.子どもは,報道とは異なり,限られた手がかりをもとに相互行為に主体的に参与し,大人が自明視しているルールを明らかにする存在であることが明らかになった.

  • 小川 美香
    2022 年 25 巻 1 号 p. 70-85
    発行日: 2022/09/30
    公開日: 2022/10/19
    ジャーナル フリー

    近年,日本の介護現場では外国人の受入れが進み,多様な人々が就労しているが,彼らが主体的な社会的行為者として他者との関係性の中で論じられることは少ない.本稿は,コロナ禍でも急増する介護の技能実習生と受入れ施設の日本人職員,監理団体の担当職員,日本語教師の4者が参加したオンライン「日本語×介護ワークショップ」での「学び合い」の報告である.また,コロナ禍の介護現場における真正の文脈で,主体的,対話的に創生する日本語教育実践を通じて参加者が協働し,日本語やコミュニケーションをめぐる課題と解決へのアクションを探った記録でもある.研究の全ての過程において,参加者を社会的行為者として優先し,他者との関わりや個別・具体性を捨象しない記述を通してコロナ禍という非常時に4者がどのように「学び合い」,その実相から浮かび上がる日本語教育の今後の課題は何なのか,データから明らかにした.分析の結果にもとづき,介護の実習生への日本語教育の課題として,外国人と日本人が共に構築する日本語教育の場の重要性,監理団体職員のような労使関係にない第三者の役割の再検討と介護の専門家との協働をより強化することの必要性を指摘した.

  • 小松原 哲太
    2022 年 25 巻 1 号 p. 86-101
    発行日: 2022/09/30
    公開日: 2022/10/19
    ジャーナル フリー

    本論文では,「コロナ禍」という社会現象を,認知言語学による比喩研究の視点から考察した.コロナウイルスを話題とする新聞記事の直接引用箇所をコロナ禍について語る発話の記録とみなし,そこにみられる比喩表現と話者の社会的背景の分析をもとにして,コロナ禍の概念化によく利用されている比喩の特徴を明らかにした.本研究の調査では,「コロナとの戦い」として概括的に理解されている2つの比喩である,感染症対策についての戦いの比喩と,商売についての戦いの比喩がよく用いられていた.これらの比喩が社会的認知にもたらす含意を分析するために,概念メタファー理論で提案されている「意味焦点」(目標領域に写像される起点領域の中心的な知識)の枠組みを適用した.分析の結果,この2つの比喩は両立しない概念構造を背景としているにもかかわらず,意味焦点となる要素が異なるために,比喩的思考における矛盾が表面化することは稀であることが分かった.コロナ禍において,商売を営む事業従事者は,「コロナと戦う」ために営業を自粛するか,「生き残る」ために営業を継続するかに関してしばしば葛藤の状態に置かれているが,本論文の分析は,この社会行動に関する葛藤が,使用されている概念メタファーに含まれる矛盾によって動機づけられたものであることを示唆している.

資料
  • 酒井 晴香, 井濃内 歩
    2022 年 25 巻 1 号 p. 102-117
    発行日: 2022/09/30
    公開日: 2022/10/19
    ジャーナル フリー

    新型コロナウイルス感染症の世界的流行は,大学生の日常における諸活動をオンライン上へと移行させた.本稿は,人々が生活様式の大きな変更を迫られていた2020年2月~6月頃をコロナ禍初期と捉え,この時期の大学生たちによるオンライン雑談会話のデータを提示する.画面とウェブカメラを介したコミュニケーションであるオンライン会話の特徴として,対面とは異なる視野の範囲と,それに応じた見ること/映ることをめぐる参加者の言語・非言語的振る舞いが挙げられる.本稿では,(1)画面を通した相手や相手の空間への視覚的アクセスと,(2)ウェブカメラに映ることの選択と映り方の調整をめぐる相互行為に着目し,他者との「つながり(bonding)」(Ide & Hata, 2020)が生み出される方法を分析した.その結果,(1)では,相手の空間に対する言及のなかで出現する共同注視や声の共鳴が一体感を生んでいることと,そうした言及を通して相互行為の場の拡張がなされていることが観察された.また(2)では,ウェブカメラへの映り方を調整・評価する相互行為によってオンライン会話のコミュニケーション規範が共有/確認され,参加者の社会的連帯が強化されることが示された.分析より,オンライン会話における身体・相互行為・社会文化レベルでの多様なつながりが,視覚的なコミュニケーション資源の利用を通じて創発される具体的な方法が明らかになった.

ショートノート
  • 岡 典栄
    2022 年 25 巻 1 号 p. 118-125
    発行日: 2022/09/30
    公開日: 2022/10/19
    ジャーナル フリー
    コロナ禍でろう・難聴者に突然もたらされた生活上の様々な変化に関しまだ,収束が見られない現時点(2021年9月時点)においては,分析・評価よりもできるだけ多くの正確な記述を残しておくことが重要だと考える.成人に関しては手話による情報の少なさ,子どもに関してはオンライン授業の状況や,家庭内での孤立,さらにオリンピック・パラリンピックをめぐる情報提供のあり方を中心に記述する.
  • 大津 真実
    2022 年 25 巻 1 号 p. 126-133
    発行日: 2022/09/30
    公開日: 2022/10/19
    ジャーナル フリー

    新型コロナウイルス感染症拡大に伴い,情報の獲得が困難な外国人住民への支援が求められている.しかし,中でも周縁化されがちな母親という存在については十分に取り上げられていない.本稿は外国人の母親を支える地域の取り組みに注目し,大阪府豊中市にて外国人住民への支援を幅広く展開している国際交流協会を事例に,コロナ禍における支援の現状と課題を探った.当協会の報告書や支援を担当する職員への聞き取り調査から,緊急事態宣言下で活動が制限されるなか,地域の公園やオンライン会議システムを利用して活動を継続したり,多言語での支援体制の拡充を行ったりと,外国人住民のニーズに応じて情報提供や支援が行われていることが明らかになった.一方で,オンライン会議システムによってコミュニケーションのあり方が変化することで,雑談から生まれるような気づき,そこから相談へと発展するような悩みは表面化されにくくなっていることが示唆された.

  • 下地 理則, 松浦 年男, 久保薗 愛, 平子 達也, 小西 いずみ
    2022 年 25 巻 1 号 p. 134-141
    発行日: 2022/09/30
    公開日: 2022/10/19
    ジャーナル フリー

    コロナ禍では方言研究に必要不可欠なフィールドワークが制限され,日琉方言研究者は自らの研究のありかたを見直す必要に迫られた.方言研究コミュニティでは,コロナ禍初期からそうした問題意識を共有し,状況に応じた研究方法や研究環境を探ってきた.本稿では,方言研究コミュニティがコロナ禍にどのように反応し,どのような適応を行い,今後どのような展望を描いているかを報告する.まず,研究コミュニティの反応を,情報交換のための自主的な集まり,学術研究団体・グループによる研究支援,有志の個人によるオンライン面接調査の支援という3つに分けて述べる.次に,ビデオ通信調査など現地調査に代わる方言研究の方法をタイプ別に示し,そうした方法論がどのように共有され,議論されてきたかを紹介する.さらに,こうした活動の中で現地調査の実施可能性が話題となったのを受け,筆者の一人はコロナ禍での現地調査実施のガイドラインを提案した.本稿ではその構成や使用方法を紹介する.最後に今後の展望として,コロナ禍が方言研究にもたらした積極的な側面について述べる.

  • 佐藤 孝一
    2022 年 25 巻 1 号 p. 142-149
    発行日: 2022/09/30
    公開日: 2022/10/19
    ジャーナル フリー

    自然災害で被災した地域では,被災者を励まし鼓舞するために,その地域の方言を使ったメッセージを掲げることがある.このような方言の活用は「方言エール」「方言スローガン」と呼ばれている.2011年の東日本大震災や2016年の熊本地震の被災地では,「けっぱれ!岩手」「がんばるけん!熊本」といった方言エールが被災地域に掲げられていた(井上ほか,2013;茂木,2019).2020年に始まったコロナ禍でも,方言を用いた「エール」や「スローガン」が見られるが,過去の二つの震災で見られた類型とは異なるものが見られた.そこで,東日本大震災と熊本地震の後とコロナ禍で見られた方言エールや方言スローガンの共通点と相違点を調査・分析し,方言部分の意味から「エール」と「スローガン」を区別するのが適切であると結論づけた.

研究論文
  • 半沢 千絵美
    2022 年 25 巻 1 号 p. 150-165
    発行日: 2022/09/30
    公開日: 2022/10/19
    ジャーナル フリー

    本研究では,相づちに代表される聞き手による発話を「聞き手反応」とし,それらの機能が日本語母語話者と日本語学習者では異なる傾向を示すのか,機能分類の分布をもとに分析した.14組の日本語母語話者同士および,13組の日本語母語話者と中級日本語学習者の自由会話と物語伝達の談話を分析対象として,データにあらわれた「うん」「はい」「そうですか」等の聞き手反応を7つの機能に分類した.その結果,学習者の傾向として,「聞いていることを示す聞き手反応」の割合が低く,「理解を示す聞き手反応」および「話し手の応答要求に対する反応」の割合が高いことが示された.「理解を示す聞き手反応」と「話し手の応答要求に対する反応」が学習者に多く用いられていることは,学習者が積極的に自身の理解を母語話者に伝え,コミュニケーションを円滑に進めようとしていることのあらわれであると考えられるが,「聞いていることを示す聞き手反応」が少ないことで,学習者の聞き手反応に不自然さを感じさせる可能性がある.聞き手反応の機能と表現形式の分析からは,学習者は「理解を示す聞き手反応」としての「あ系」の聞き手反応の使用が少なく,「そう系」の聞き手反応の使用が特徴的であることが明らかになった.

  • 酒井 晴香
    2022 年 25 巻 1 号 p. 166-181
    発行日: 2022/09/30
    公開日: 2022/10/19
    ジャーナル フリー

    本研究では,地域住民が徒歩や自転車でアクセスできる近隣型商店における,店員と常連客による会話を対象とする.分析では,出会いのあいさつの後に生起する雑談に着目し,参加者の空間的な位置関係を踏まえたうえで,雑談の開始・収束と,雑談が展開する中で実践される店員と客の関係を検討した.まず,出会いのあいさつ後の雑談において,店員による前回の接触への言及,生活ルーティンへの言及,客による冗談が観察され,持続的な関係の確認が互いに行われていた.また,この雑談は,店員の常駐位置と出入口が近く,客の動作速度から近接状態の継続が予想されるために生じていた.そして,展開する雑談の中で,店員と客は対等な立場から雑談に参加していた.雑談を収束させて商品選択を促すやりとりからは,規範的な上下関係に基づかない店員-客関係の実践が観察された.上記のような言語使用が買物に付随して日常的にみられる近隣型商店は,自治会や祭りの運営などと並び,地域社会のコミュニケーションが集積される場の一つと考えられる.

  • 糟屋 美千子
    2022 年 25 巻 1 号 p. 182-197
    発行日: 2022/09/30
    公開日: 2022/10/19
    ジャーナル フリー

    本研究は,「TPP大筋合意」を報じたテレビニュースをクリティカル・ディスコース分析の手法で分析し,考え方の枠組みの構築の複合的メカニズムを解明することを試みた.分析の結果,「TPP大筋合意」という出来事について,「農産物などの食品の価格低下で消費者と企業は利益を受けるが,農家が不安を訴えているので政府が対策をとる」という解釈の枠組みが作られていたことがわかった.さらに,この出来事そのものの解釈を超えて,貿易協定などの政策について人々は影響を受ける一方の受け身の存在であるという考え方や,農家と消費者の関係性が対立しているという見方など,一面的で限定的な枠組みが構築されていた.こうした考え方の枠組みは,情報の選択,話の展開,語彙・語法,視覚的要素などのディスコースの要素の複雑な相互作用によって,重みづけ,因果関係,登場人物の属性などが一面的・限定的に描かれ,それらが互いに結びつき強化し合うことで構築されていた.また,ディスコースの要素の1つ1つは特定の考え方をはっきり示してはいないが,すべての要素が一貫して同じ考えを作り出すことで,根拠や説明が十分に示されないまま,他の様々な考え方の可能性が排除され,特定の考え方が,疑う余地のない唯一の考え方であるかのように表されていた.

  • 金 孝珍
    2022 年 25 巻 1 号 p. 198-213
    発行日: 2022/09/30
    公開日: 2022/10/19
    ジャーナル フリー

    日本語母語話者と非母語話者が日本語でコミュニケーションをする接触場面では母語話者同士によるコミュニケーションとは異なった言語行動が繰り広げられる.一例として,母語話者による「タメ口」と呼ばれる言語形式の使用が挙げられる.本研究では,接触場面の初対面会話におけるタメ口使用に着目し,スピーチレベル運用の傾向及び相手のスピーチレベルについての評価を調査した.そして母語話者のスピーチレベル運用に関わる要因及びメタメッセージ,非母語話者(本研究では韓国人日本語使用者)のスピーチレベル運用及び解釈に関わる言語的・文化的要因について考察した.日本語母語話者及び韓国人日本語使用者を対象に行った質問紙調査の結果,接触場面の初対面会話で母語話者が用いるスピーチレベルは,主に丁寧語及びタメ口であることが明らかになった.また,母語話者のスピーチレベル運用には「言語的力関係」,日本語についての「ステレオタイプ」,「外国人要因」などが関わっており,「言語的気配り」あるいは「言語的おもてなし」とも言えるメタメッセージが内包されていることが分かった.一方で,日韓の初対面会話ではタメ口使用がコミュニケーション上の誤解やトラブルの要因になり得るということが示された.

  • 坪根 由香里, トンプソン 美恵子, 影山 陽子, 数野 恵理
    2022 年 25 巻 1 号 p. 214-229
    発行日: 2022/09/30
    公開日: 2022/10/19
    ジャーナル フリー

    本稿は,①日本語を母語とする日本語教師はどのような特徴を持つナラティブ作文を高く評価するのか,②日本語のナラティブの上位作文を評価する際,評価者によって重視する項目が異なるのか,異なるとしたら,どのような違いがあるのか,について明らかにすることを目的とする.調査では,日本の大学で日本語の作文指導をしている日本語母語話者教師20名に,海外の大学で学ぶ日本語学習者による10編の作文を評価してもらい,その中の上位4編の結果を用いて分析を行った.その結果,①については,〈メインポイントの明確さ〉〈興味深さ〉〈一貫性〉〈過不足ない描写〉〈順序立て〉〈正確さ〉を,ナラティブ作文の上位作文で順位を決定する際の重要な要素としていることがわかった.②については,まずクラスター分析をした結果,4つのクラスター(評価者グループ)に分けられた.各グループの評価者が作文を評価した際の自由記述を分析し,その特徴からそれぞれ,「日本語の正確さ・具体的な描写重視グループ」「厳密な課題達成重視グループ」「曖昧さ・わかりにくさ低評価グループ」「焦点を絞った描写・構成重視グループ」と名付けた.以上のことから,教師は他の評価者が自分とは異なる観点から作文を捉え,評価やコメントを行う可能性を認識した上で,学習者の作文を評価,指導する必要があることが示唆された.

ショートノート
  • 細馬 宏通, 村岡 春視
    2022 年 25 巻 1 号 p. 230-237
    発行日: 2022/09/30
    公開日: 2022/10/19
    ジャーナル フリー

    遠隔コミュニケーションの相互行為分析においては,レイテンシ(遅延)をどのように扱うかが重要となる.本論では,参加者全員を機器なしに同時に俯瞰する絶対時系列と,各参加者から見た相対時系列とを区別し,レイテンシが各参加者にどのような影響を与えるかを,単発のできごとのずれ,同期のずれ,参加者間で認知される発話間沈黙の相違,複数の聞き手が次の話し手として同時に発話を開始する場合のオーバーラップ,聞き手による次の話し手選択と話し手による継続とのオーバーラップの場合に分けて図式化した.また,レイテンシを伴うコミュニケーションの収録方法,および,既成の動画データを分析する際に相対時系列を再現する方法について述べ,その具体的な手続きを簡単な事例分析で例示した.

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