社会言語科学
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研究論文
人種とことばとパワー―フィクション小説が言語教育に与える示唆―
久保田 竜子
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2023 年 26 巻 1 号 p. 49-63

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抄録

近年,北米の言語教育研究の分野では,社会情勢を反映して,社会正義,特に人種問題が頻繁に取り上げられている.本稿では,人種・レイシズムに関する概念的枠組みを基に,日本における人種と言語との交差性に焦点を当て,外国につながる日本語使用者たちの人種および他の属性の交差性が,どのような形で生活体験に影響を与えているのかを,最近出版されたフィクション小説の内容を通じて考察する.登場人物たちが日本で受ける異なる扱いには,人種言語イデオロギーやステレオタイプが作用していると同時に,それぞれ異なる人種・民族・国籍・言語・ジェンダー・セクシュアリティ・社会経済的地位が絡み合っている.そして彼らは権力の序列の中に位置づけられてしまっている.外国につながる日本語使用者という共通集団に属しているといえども,それぞれ遭遇する体験は大きく異なる.特に,不可視的な特権を持つ白人性と日本人性がイデオロギーとして働き,これらの登場人物と日本人との権力関係を交差性と相まって複雑な形で構築している.言語教育の中で,個々の人間の尊厳を重んじる反レイシズム,反差別,反規範主義を推し進めていく必要がある.

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© 2023 社会言語科学会
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