文末の言語標識は,しばしば対話相手との社会・感情的機能を担う.なかでも東/東南アジア言語に広く見られる文末詞は,話し手の対話相手に対する心的態度を表す専用の語彙であり,種類も用法も豊富である.それだけに運用の個人差も大きく,世代間の対人関係を損なう原因となり得る.本研究は,若年層と高年層の定型発達の日本語母語話者を対象とし,日常的な指示を受ける際の文末の敬語「ください」と終助詞「ね」への反応として,参加者の主観的評定とともに,彼らが指示文を聴いた際の脳波を測定した.感情処理を反映する事象関連電位とされる早期後頭陰性電位 (early posterior negativity: EPN)を指標として,これらの語彙の認知過程を参加者の世代と性に応じて比較した.その結果,主観的評定では高年層が敬語のない文をより厳しく評価していた.脳波分析の結果は,「ね」の有無について高年層の男女が反対の傾向を示した.女性は「ね」がないとき,男性は「ね」があるときに有意なEPNを生じた.若年層男性も「ね」がないときに有意なEPNを示し,それぞれを感情的違和感の現れと解釈した.これらの知見に基づき,文末標識の運用がいかに世代間の対人関係を左右し得るかを論じる.