抄録
本研究は,計算機を媒介とした人間同士の会話を対象に,会話への没入という認知的態度の解明を目的とする.ネットワークで接続された計算機上でのチャットシステムを用いた心理実験を行ない,会話中のタイプ速度や姿勢,会話前後のタイプスキルを計測した.また会話後に数唱課題を行なった.分析の結果,目的指向会話ではタイプスキルの高い被験者が,自由会話ではタイプスキルの低い被験者が,それぞれ会話中にフロー体験をしていた可能性のあることが示唆された.また,難易度は高いがスキルは低いという,フローチャンネルにない状況において,被験者のスキルの向上によるフローチャンネルへの移行が観察された.これらの結果を,Csikszentmihalyの提唱するフロー理論にもとづいて考察した.