抄録
本論は,筆者グループの敬語表現研究を紹介し,その研究成果からB&L(Brown & Levinson(1987))の「ポライトネス」理論およびそれに依拠した諸研究に対してコメントしたものである.コメントのポイントは次の3点である.1.ポライトネス研究は,ディスコース・レベルのポライトネスを志向するものであるべきである.現在のB&Lは文レベルのポライトネスの分析に止まっている.2.ポジティブ・ポライトネスとネガティブ・ポライトネスが共存する表現が存在する.ポライトネスの普遍理論は,この現象を説明できるようでなければならない.3.個別言語の「配慮」表現の記述は,異なる文化的背景を持つ言語のそれと共通の枠組みを持つべきである.個別言語の文化的特徴を強調しすぎるのはポライトネス研究の深化にとって生産的でない.