社会言語科学
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京都市方言・女性話者の談話における「ハル敬語」の通時的考察 : 第三者待遇表現に注目して(<特集>言語の対人関係機能と敬語)
辻 加代子
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2002 年 5 巻 1 号 p. 28-41

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抄録

本稿は,京都市方言・高年層女性話者による談話資料および江戸時代後期上方洒落本(京都板)を資料として,各時代の敬語の運用実態および運用構造を談話分析の手法により解明し,中年層女性の実態と比較検討しつつ変容過程を明らかにすることを試みた.当該方言では日常のくだけた場面において素材待遇語の使用が第三者待遇に偏るとされる近畿中央部方言の敬語運用上の特質を顕著に示すと同時に,関西各地で隆盛が指摘されているハルが専一的に使用されており,尊敬語機能から三人称指標ともいえる機能への変質が認められる.高年層話者においては上記の特徴を強く帯びているもののハルの用法に尊敬語の特質をいくらか残し,江戸時代後期資料にみられる敬語運用には「第三者待遇に偏る素材待遇語の使用」は認められないが待遇の別により異なる敬語形式が用いられていることを具体的に明示した.洒落本資料のうち,天保7年刊行の『興斗の月』にハルの前駆的な形態とされるヤハルのもっとも早い用例が現れ,第三者待遇で使用されていることも明らかにした.

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© 2002 社会言語科学会
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