抄録
初期地球におけるマグマオーシャンから現在の地球が形作られたまでの分化プロセスを議論するために、ペリドタイトマグマの密度は重要な物性の1つである。それは冷却によって晶出してくる結晶とマグマの密度差によって形成される層構造に差異が生じる可能性があるからである。例えば、地球と同じような組成を持っていると考えられている月に着目してみると、地球では見られない斜長石から成る地殻が確認されている。地球と月は共にマグマオーシャンを経験しているが、そこからの分化・進化のプロセスが異なっていることが示唆される。その原因を解明する上で水の存在が鍵を握っていると考えられている。それは質量が大きく水を保持するための重力が十分にあったと考えられている地球と、質量が小さく水を含む揮発性物質に枯渇している月とではマグマオーシャン時の含水量が異なっていたと推測できるからである。水が存在しない月では地球に比べて相対的に重いマグマオーシャンが広がっていて、地球では浮かびえない斜長石が浮き上がり、地殻を形成したと考えることができる。しかしながら、含水条件下におけるマグマの密度測定の研究例は限られており、正確な議論を行うには研究が少ないのが現状である。そこで本研究では、過去の研究において我々が無水・含水条件下における玄武岩マグマの密度測定に成功しているX線吸収法を用いて、ペリドタイトメルトの密度を無水・含水条件下で測定し、分化プロセスに及ぼす水の影響を議論していく。
高温高圧条件下におけるX線吸収法には高輝度単色光を必要とするため、SPring-8のBL22XUを使用し、そこに設置されているDIA型キュービックプレスを用いて実験を行った。先端6mmのWCアンビルで,広い吸収プロファイルを得るためにX-rayのパスの部分だけ溝(深さ0.2mm×幅1.5mm)があるものを用いた。試料は内径0.5mm,外径1.0mmのダイアモンドカプセルに詰めた。ダイアモンドは変形しにくく,珪酸塩メルトと反応しない。また,珪酸塩メルトと比べるとX線をあまり吸収しないので,今回の実験に用いるカプセルとして最適である。圧媒体にはボロンエポキシを用い,加熱にはグラファイトヒーターを用いた。アンジュレーター光源からのX線はSi(111)の2結晶分光器で23keVに単色化した。これをスリットで50μm×50μmの大きさまで絞り,試料に入射した。入射と透過X線の強度はイオンチャンバーで測定した。温度はWRe25%-WRe3%で測定し,圧力はMgOの状態方程式から計算した。出発試料は合成したパイロライト組成の結晶で、含水パイロライトはMg(OH)2を後から加えて、5wt%の水を含むものを作成した。実験条件は5GPa,2100Kまでである。