抄録
南極=エイトケン盆地は月の裏側/南半球に存在する、太陽系内で最も大きな衝突構造のひとつである。一般的な衝突理論による掘削深さを考えると、南極=エイトケン盆地では、斜長石に富んだ地殻は完全に剥ぎ取られ、その下にあるマントルが露出しているはずである。しかし、過去のガリレオやクレメンタイン探査機による観測では、南極=エイトケン盆地内に明確にマントル起原と同定できる領域は見つかっていない。そこで我々は、「かぐや」に搭載された分光計および多色カメラを用いて、南極=エイトケン地下深く(5~25km)の物質が露出していると考えられる、クレーターの中央丘の組成を系統的に調べた。その結果、Antoniadiをはじめとする4つのクレーターが、非常に斜方輝石に富んだ物質で構成されていることが明らかになった。この物質は、南極=エイトケン盆地をつくった衝突によってマントルが大規模に溶融し、再固結したものだと考えられる。