抄録
Magnetite:Fe3O4は低温酸化に伴って,六配位席中のFe2+がFe3+へと転移し,そのFeの価数変化に伴う電荷を補償するために空孔が導入されていく.この空孔量は0~1/3の間で連続的に変化する.空孔量1/3の場合,化学組成はFe2O3となり,maghemiteとなる.したがって,magnetiteの空孔量はmagnetiteが受けた低温酸化の指標であると考える事ができる.本研究ではいくつかの産地・産状において得られたmagnetiteが受けた酸化の程度を見積もるため,Guinierカメラを用いたX線回折法を用いてmagnetiteの格子定数を測定、種々の補正を行い間接的に空孔量を精密測定した.
合成したmagnetiteとmaghemiteから得られた空孔量は,それぞれの格子定数の文献値を元に算出した空孔量とほぼ一致した.天然の試料では,産状の違いから深成岩,スカルン鉱床,砂鉄のmagnetiteの空孔量を測定したが,産地による空孔量のばらつきがあり,単純に産状により空孔量が支配される訳では無いようだ.更に議論するためにはより多くの試料を検討する必要がある.