抄録
北上山地,田野畑累帯深成岩帯とそれにともなう泥質接触変成岩の酸素同位体組成を調べ,接触変成作用における流体挙動を考察した.田野畑接触変成帯には,ルーフペンダント部にて高温の変成岩が熱源である田野畑岩体より幅広く分布する特徴があり,田野畑岩体から上方への選択的熱輸送が考えられていた.接触岩類では,泥質岩の部分溶融が認められる最高温部のざくろ石-菫青石帯とは,それより低温側の鉱物帯の岩石で,酸素同位体組成傾向が全く異なっている.構造的位置関係を合わせて考察すると,田野畑岩体から放出された低い酸素同位体比を持つ流体は,ざくろ石-菫青石帯のミグマタイト・メルトにて吸収・緩衝されて,岩体上方全体に熱輸送を行うことはなかったと考えられる.ざくろ石‐菫青石帯ミグマタイトは,酸素同位体的には田野畑岩体縁辺に伴う花崗質小岩体に類似し,成因上の関係が示唆される.