火星隕石には鉄ナノ粒子の存在により黒色化したカンラン石が報告されており、これまでの我々の研究ではそれらは高圧相転移に伴い形成されることが示唆されている。カンラン石の黒色化は強い衝撃により普遍的に引き起こされる可能性があるが、これまでに火星隕石以外ではほとんど報告がない。唯一、赤色化したカンラン石が月隕石中(Dhofar 303とそのペア隕石)で報告されているが、その詳細な観察や着色過程の議論は行われていない。本研究では月隕石Dhofar 307中の赤色カンラン石を詳細に観察し、その着色過程の推定を試みた。観察の結果、赤色化領域とカンラン石組成に相関はないが、赤色化領域は風化に弱く結晶度の悪い黒色カンラン石と似たような組織を持つことが明らかになった。また、内部にはヘマタイトのナノ粒子が存在し、それらは晶出した鉄ナノ粒子が地球上での風化により酸化したものだと考えられる。鉄ナノ粒子は反射スペクトル等を変化させることが知られている。火星以外の天体でも強い衝撃によりこのような現象が起きた場合、本来表層に存在しているはずのカンラン石をリモートセンシングで見落とす可能性があり、広く注意を必要とする。