抄録
ユークライト隕石は、分化エコンドライトの一種であり、小惑星ベスタを起源とすると考えられている。これまでユークライトに見出されるシリカ鉱物の成因に関し、結晶化学的性質を指標にして母天体における冷却過程や二次変質作用の考察がされてきた。本研究では、玄武岩質ユークライト4試料から見出される石英の鉱物学的化学的特徴から、その形成過程について考察した。カラーCL像観察では、JuvinasやNWA 1466中のトリディマイト(~400μm)のリムや付随する割れ目に弱い赤紫色発光鉱物を見出し、Raman分光分析によりこの部分が石英であることを確認した。これら石英のCLスペクトル波形分離解析では、640 nm付近に非架橋酸素空孔(NBOHC)の強い発光成分を検出した。NBOHCは石英結晶構造中の-OH基に関わる構造欠陥を含み、熱水起源の石英でよく見られる。また石英中のTi固溶量は温度依存性を持つことを利用し、Juvinasに含まれる石英の結晶化温度を推定すると780℃ほどである。以上の結果は玄武岩質ユークライト中の石英の熱水交代作用による晶出プロセスを支持している。