抄録
2016年4月16日未明の平成28年熊本地震により,阿蘇中央火口丘群西麓の比較的緩傾斜の地域において地すべり災害が多発し,甚大な被害をもたらした。緩傾斜地における地すべりの発生と,火山性堆積物の風化・変質生成物の関係について予察的調査を行った結果を報告する。南阿蘇村河陽のなだらかな丘陵地周辺部で発生し,被害をもたらした複数の流動性地すべりについて,すべり面とその周辺の泥質火山灰層試料について粉末X線回折法による解析を行った結果,これらは降下火山灰の変質生成物であり,膨潤性粘土鉱物であるハロイサイト(10Å)が卓越していることが示された。地震直前1週間に降雨はほとんど無かったこと,平滑なすべり面が草千里降下軽石層付近の複数の層準で生じていること,明瞭な降下軽石層が存在しない領域でも起こっていることは,本地域での大規模な地すべりが強い地震動によって変質火山灰層に起こった流動化が引き金となって起こった可能性を示唆している。