抄録
東北本州弧では地球物理学的観測が盛んに行われており、これまで例えば地震波速度構造からマントル温度の三次元分布を描出する試みがなされていが、それらについての物質科学的な検証はほとんど行われていない。本研究では秋田駒ヶ岳の玄武岩を対象に岩石学的解析を行い、マグマの生成条件を推定することによって、マントルの温度構造に制約を加えることを試みる。推定には全岩のMgO量の高い試料を用いた。まず斜長石とメルトとの平衡関係を利用し、マグマの含水量として3.8 wt.%が得られた。そしてカンラン石最大分別モデルを用いて初生マグマの組成を推定し、ソースマントルの部分溶融度は16%、含水量は0.54 wt.%と推定された。マグマの生成場では、0.54 wt.%の含有量をもつ枯渇マントルが16%融解する条件と、初生マグマがカンラン石と平衡共存する条件とが満たされることから、その条件として温度:1298℃、圧力:14.2 kbarが計算で得られた。以上から、秋田駒ケ岳の深さ約45 kmにおける現在の温度条件は約1300℃であるとの制約が本研究で得られた。この温度条件は、先行研究に比べ100℃以上高温である。