抄録
中央海嶺周辺の下部地殻における熱水変質作用の実態を明らかにするために,アトランティス・バンクIODP Hole U1473AとODP Hole 735Bから採取された斑れい岩類の岩石学的研究を行った結果,黒雲母と黒雲母-緑泥石混合層が広く分布していることが明らかになった。735Bの斑れい岩試料からは普通の緑泥石よりもSiとCa + Na + Kに富む,緑泥石-スメクタイト混合層が報告されているが,それらはKに乏しく,かんらん石の残晶や仮像をクロスカットする点で,黒雲母-緑泥石と識別できることが明らかになった。
黒雲母および黒雲母-緑泥石の多くは角閃石と共存し,かんらん石残晶をコロナ状に取り囲んで産する。このコロナは珪長質脈の近傍で多産する傾向がある。コロナ状黒雲母の一部は,相当量のフッ素を含有している。さらに黒雲母と共存する角閃石と斜長石の平衡温度は630℃~830℃と見積もられる一方,珪長質脈の石英のTi含有量は620℃以上の生成温度を示唆する。これらの結果から,黒雲母およびB/C混合層は,角閃岩相の条件で珪長質マグマ起源の流体と母岩のかんらん石が反応して生じたものと考えられる。