景観生態学
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原著
山形県におけるクマタカの生息適地推定モデルの構築
杉山 智治須崎 純一田村 正行
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2009 年 13 巻 1_2 号 p. 71-85

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抄録

本研究では,希少猛禽類クマタカの保全・保護対策のために,クマタカの生息適地推定モデルを構築し山形県内における生息適地分布図を作成した.本モデルでは対象地域をグリッドで分割し,個々のグリッドに対して周辺の地形・植生状況を表現する各種指標値を与えて生息地としての適否を推定した.従来の研究では,約5 km×5 kmのグリッド内の,平均標高・平均傾斜・最低標高等の地形指標が主に用いられていた.しかし本研究では,クマタカの生息環境をより的確に表現するため,クマタカの生息に重要とされる谷地形の分布状況を表現する指標等,全部で13種類の地形・植生指標を対象とした.また,詳細な生息適地分布図を作成するためグリッドサイズを50 mとした.なお,各指標が集計対象とする周辺範囲の広さによって指標の環境説明力が変化するため,既往の研究を参考に,集計対象範囲を各グリッドから半径0.5 km,1 km,1.5 km,3 kmの円内の4通りに設定した.各指標値の算出には国土地理院の数値地図50 mメッシュ(標高)および環境省の現存植生図(1/50,000)を用いた.最適モデルの選択においては,ロジスティック回帰分析を用いて各地形・植生指標を組み合わせたモデル式を作成し,各々の適合度や推定精度等を比較した.その結果,周辺半径1 kmの谷地形の分布状況を表す指標と周辺半径3 kmの樹林地の面積割合を表す指標を組み合わせたモデルが最適モデルとして選択された(Overall accuracy 91.8%).さらに,最適モデルにもとづいて作成した生息適地分布図を5 kmグリッド化したものとクマタカ確認情報分布図を比較すると,概ね高い精度(Overall accuracy 89.0%)で一致し,推定された生息適地の大部分においてクマタカの確認情報が存在していることが判明した.以上より,本研究で作成したモデルは高い精度で生息適地を推定できており,クマタカの生息適地推定には谷地形の分布と樹林面積に着目することが重要であるといえる.

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© 2009 日本景観生態学会
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