景観生態学
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原著
近代化の過程における日本の森林変遷に関する空間解析
原田 一平松村 朋子原 慶太郎近藤 昭彦
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2011 年 16 巻 1 号 p. 17-32

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抄録
森林と人々の生活は密接に関わりながら,地域の景観を形成しているが,近代化による人々の生活様式の変化に伴い森林との関係も変化し,森林景観も変遷している.国土利用からみた森林地域の変遷に関しては既に多くの研究報告があるが,これらの研究報告の多くは土地利用変化を社会・経済的な要因から論じたもので,気候的・地形的特徴から定量的な森林変遷を日本全土で分析した事例は少ない.本稿では,1900年(明治・大正期)から1985年(現代)までの85年間にわたる土地利用・土地被覆変化から森林の変遷を把握し,日本全土の植生分布と自然的立地条件(気温,標高,地形)との関係を明らかにすることを目的とする.土地利用データは日本全国土地利用データセットのLUIS(Land Use Information System)を使用した.森林変遷の過程を定量化するために,森林的利用に着目した3タイプの土地利用・土地被覆変化,すなわち,a)1900年から1985年にかけて継続して森林的利用であった地域,b)1900年から1985年にかけて森林的利用から非森林的利用に変化した地域,c)1900年から1985年にかけて非森林的利用から森林的利用に変化した地域,と気温,標高,地形との関係について空間解析を行った.1900年から1985年にかけて森林が変化していないタイプは混交樹林が最も多く,森林が変化したタイプは広葉樹林から混交樹林に変遷したタイプが最も多いことが認められた.1900年から1985年にかけて継続して広葉樹林,混交樹林であった地域はともに250 m~1000 mの山地急斜面に最も多く,気候帯を日本全土でみると冷温帯は広葉樹林,中間温帯,暖温帯は混交樹林がもっとも多く分布していることが認められ,気候や地形に即した潜在的な自然植生が分布していることが明らかとなった.また,森林的利用から非森林的利用に変化した地域の中で,広葉樹林から農地に変化した地域は,冷温帯で250 m以下の砂礫台地及び岩石台地,火山灰砂台地に分布しており,針葉樹林から農地に変化した地域は,暖温帯で100 m以下の砂礫台地及び岩石台地,扇状地および谷底平野に分布しており,気候的特徴,地形的特徴によって異なることが明らかになった.さらに,1900年から1985年にかけて非森林的利用から森林的利用に変化した地域は,荒地から森林に変化した地域が最も多いことが認められた.荒地から森林に変遷した地域の気候帯は冷温帯,中間温帯,暖温帯で,1000 m以下の山地急斜面で広域に分布しており,森林への変遷は混交樹林が最も多かった.
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© 2011 日本景観生態学会
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