抄録
生物多様性だけでなく我々の生活の豊かさを保つために極めて重要な都市緑地は,人工的な空間に置き換えられている.その最大の原因である急速な都市化は,都市緑地に悪影響を及ぼし続け,ヒートアイランド現象に代表される局所的な気候変動まで引き起こしている.さらに,都市域において野生動植物の生息地の断片化・孤立化は深刻であり,この変化に適応できない生物種は絶滅に追いやられている.そのため,単に緑地の総面積を増やすだけでなく,残存する緑地間のネットワーク性強化が,弱体化した生態系サービスを復元する有効な手法であると考えられる.しかしながら,都市の過密化により緑地を創出するためのスペースはほとんど残されていない.以前は緑化空間として見なされていなかった建物の屋上に近年注目が集まり,景観生態学・緑化工学分野において屋上緑化技術は次第に発展してきている.本総説は,我が国と英国の屋上緑化の事例を比較しながら今後の屋上空間の可能性について調査すると同時に,生物にとって厳しい条件下で生物多様性を保全するための緑化手法を提案することを目的とした.その結果,我が国のセダムやシバによる単一植栽による粗放型屋上緑化は,生態学的価値が低いだけでなく期待されている室内熱環境改善効果も大きくないため,英国で普及しているブラウンルーフに切り替えた方が,生物多様性保全や室内熱環境の観点から,より有益であることが示唆された.さらに,集約型屋上緑化は残存する緑地間に飛び石のように配置することで,ネットワーク性を強化することができると考えられた.しかしながら,屋上空間に到達できない生物種が存在する等の理由から,屋上と地上の緑地を同等に評価することは難しい.また,地上を覆っているアスファルトやコンクリートなどの不透水層をブラウンフィールドのような透水層に切り替えることができれば,生物多様性保全とヒートアイランド現象緩和の両方に大きく貢献できると考えられた.